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涙が少し収まってから、件の声に今までのことを語ってみた。
それは単に自分の今の感情を整理したかっただけの行為ではあったけれど、声が返してきたのは、意外にも真っ当な怒りの感情だった。
【何それ!? アンタ全然悪くないじゃん!! 好きな人がアンタに惚れてるからってなに!? だったら好きになってもらえる努力しろっつーの!! それでイジメってダッサ!!! で、その状況分かってる、その好きな人、先輩? も、サイッアク!! 先輩はマジでなに!? 弱ってるとこ漬け込みたい系!? 引くんだけど!! アンタが近寄らなければおわんでしょこんなん!! デリカシーもないわけ!? 見る目なさすぎ!! 周りの奴らもさ〜! もう面白がってるし普通ですけど? とでも思ってんの? バカ? 大した被害じゃないとかテメェらが決めることじゃねぇから!! 外野が好き勝手言うんじゃないっての!! そんなことも分かんないわけ!? もう一回言って良い? サイッッッアクッッ!!!】
あんまりにも遠慮がなく、息継ぎの隙もないマシンガントーク。そんな風にズバズバと切り捨ててくれるものだから、私は一周回って面白くなって、ついつい口元をほころばせていた。
【ン? も〜! 何笑ってんのよ〜! 怒れ〜!!】
「ふふ、いや、貴女が……。貴女がそんなにも怒ってくれるものだから」
嬉しくて。そう続けようとしたが、声はそこで低く言葉を落とした。
【怒るっしょ。だって、それでアンタに死を選ばせたんだし。アタシがポンコツだったから良かったけど、先輩の歌だったら、本当に死んじゃってたんだけど】
今更、本当に今更。この声は楽譜であり、歌は死を招くものなのだ。そう理解はするものの、どうしたってそこに恐怖は無かった。
むしろ、これほど人らしい(楽譜なのに!)感情を見せてくれる声に、私はすっかり心を許してしまっていた。
疲れていたからか、好奇心のたまものか。……その言葉に救われたと感じてしまったからか。まぁ、もう理由なんてどうでもいい気分ですらある。煩わしい人たちの声よりも、この含みも何も無い声の方がずっと好ましいのは事実なのだから。
だから、私はこの声を喜ばせてみたいと、そんなことを思ったのだ。
「確かに、音程や速度はアレだったけど……」
【そうでしょ……。ヘタだもん、アタシ……】
「歌詞が、とても素敵だと思ったよ」
【えっ】
そのまま声が止まってしまう。
お世辞かと思われただろうか。こういったことを今まで自分から口にしてこなかったから、正しい言い方が分からない。
だから、どうにか伝わるように、わりと必死に言葉を紡いだ。
「コレって応援歌だよ、ね。悩みも不安もあるだろうけれど負けないで立っていて。泣きたいときには泣けばいい。けど、その涙を拭う助けになれたらいい。……みたいな、意味かなぁ、って。サビ? の、ところの。顔を上げて、青空かける君の夢〜、ってフレーズがもう少しリズム早めに言ったら、もっと格好良くなると思う、んだ。本当に。……本当に」
まぁ、人を死なせる歌としてのセンスは驚くほどないけれど。
それは流石に口にはださずに思っていれば、グスッと泣き声がした。……泣き声?
【なによぉ〜!! アンタの方が大変なんだからさぁ! そんな気をつかわないでもいいっての!】
「気、なんて……。本当に素敵だと思ったんだけど」
【…………本当?】
「本当に」
声はまた少し黙り込んでから、恐る恐ると言わんばかりの声色でこう言ってきた。
【あの、ね……。アンタって、歌、上手っしょ?】
「そうだね」
【……アタシの歌の変なところっ、直してみてもらえない!?】
「…………私、が?」
それってつまるところ作曲の手伝いになるんだろうか。流石にやったことがないし、うまくできる保証もない。あれだけ歌を評価しておいて、結局私も作るのは下手でした、なんて結果になれば目も当てられない。
断るべき、なんだろうとは思うんだけど。
「………………いいよ。作って、みよう」
そんな思いなんて、言葉を止めるほどの理由にはならなかった。なんて、格好つけすぎなのかもしれない。
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