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「今や時の人となったシンガーソングライターのKEIさんに、そんな友情秘話があったんですね……!! 私、感動しちゃいました……!!」
インタビュアーがそんなことを言ってくる。学生時代の感動エピソードを是非、なんて言われても、私が語れるのはそのときのことぐらいしかない。
嘘は言ってない。友人に自暴自棄になってたのを止めてもらって、二人で作曲して将来の夢を決めた、みたいなことしか言ってないのだから。
めっきり上手くなった外面の笑みだけ貼り付けて私は答える。
「友人とは、それっきりなんですが。それでも、私が歌っていること、それを伝えられたらと思ってこの道を選んだところはあります。今は配信技術も凄いですからね」
「なるほどなるほど〜! ご友人さんに伝えたいことは?」
「あー、……あんまり無理せずに元気でいて……、だとありきたりですか?」
「ふふっ、いえいえ、本当に大切なご友人なんだなぁと思いますよ!」
そこまで話し終えたところで、インタビュアーは声を落とした。
「その、この前の事故あったじゃないですか。瀧エリの……」
「……えぇ。本当に、悲しいことでした……。私がきっときっかけだったんですよね……」
「いえっ! KEIさんが気に病む必要ないですよ……! KEIさんの歌が人気なのはもう当然です! ……ランキング抜かされたからって、表では友だちって顔してたのに、裏では嫌がらせするなんて。そのくせ自殺……。遺書で自白するぐらいなら、しなきゃいいのよ」
「…………そう、ですね。私に告白してくだされば……、自殺なんて……」
「……だから、KEIさんが傷ついてないか、不安で……。でも、KEIさんの中にはそんなご友人が居てくださるなら、きっと大丈夫だろうなって……。か、勝手な1ファンの感想なんですけど!」
大慌ての彼女に私は笑いかける。これは本当の笑みだ。だって、彼女は何も間違ったことを言っていないから。
昼ごろから続いたインタビューはようやく終わり、取材陣を見送ってからソファに座りニュースをつけた。ニュースでは、タイムリーに数ヶ月前の歌手の自殺をテーマに話している。
罪の意識? 人気を取られることへの焦り? 恋人関係? 様々な理由が語られているが、真実を知っているのは私だけ。
「全く、心配性なんだから」
私が嫌がらせされてると知って、即行動に移したんだろう。だから、ちゃんと謝ってくれさえすれば自殺なんてしなくて済んだのに。
けれど、こういったことが起こるから、私はちゃんと繋がっているのだと実感して、心底幸福を感じてる。
私がのびのびと歌えるように、あのときの人たちも全員片付けてくれた。あの歌を歌わせたのは嫉妬してしまうけれど、今だったら願いはひとつ。
最愛の私の友だち。貴女にだけ、私は歌を捧げるから。
「ちゃんと私の最期に、貴女を歌わせてね」
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