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スパンコール 3
夕方、家に帰ると、両親が仕事場で真剣な様子で話し込んでいた。
「どうしたの」
「依子、おかえり」
気が付いて声を出したのはお母さんだ。
「実はね、3丁目のコインランドリーを閉めるって話を聞いてね」
「ああ、あのおばあちゃんがやってた」
同業者のことは狭い世界なのでよく知っている。あそこは人のいい高齢のご夫婦が営んでいたはずだけど、ついに閉めることになったのか。
「そこをうちで買い取ろうと思って」
「2号店ってこと?」
「そうそう」
うちはクリーニング屋を営んでいて、私もバイトがてら時間があれば店番を任されている。頼まれれば裾上げや簡単な繕いも承るので、お客さんからは好評だ。
「あそこは住宅街だし、競合店もないから需要はあると思うのよね。前々からコインランドリー展開は考えていたし。それでね」
「依子、お前やってみないか」
「え!?」
お父さんの爆弾発言に素っ頓狂な声が出た。
「依子は裁縫もうまいし、せっかく大学で経済学んでるんだ。活かしてもらわないとな」
「書面上はお父さんの名義になるけど、経営を学ぶいい機会じゃない」
「や、でも、私まだ学生だし……」
私が謙遜に見せかけて断ろうとすると。
「誰が学費出してると思ってるの?」
どうやらそれは、決定事項のようだ。
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