スパンコール 6

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スパンコール 6

常磐さんは窓際のテーブルで歌詞を作っている。ときどきふんふん、と口ずさんでいるけど、歌声は洗濯機と乾燥機の音に紛れて届かない。 私は店番をしながらちくちくと針を動かす手を止めない。TOMOSHIBIや昼の月のライブ宣伝をするうちに、このコインランドリーはバンドマンがよく訪れるようになった。広い窓にはクリーニングの割引広告に紛れて、ライブの告知フライヤーが何枚も貼られている。 そっと常磐さんをみやる。ときどき知り合いのバンドマンに声をかけられては親しげに話をしている。明るくて落ち着いている常磐さんは、みんなに好かれているようだ。 大人な常磐さんから見たら、私なんて子供だろうな、と思う。結婚も離婚も経験したのだ。二十歳そこそこの私なんて意識なんてされないし、相手にしてもらえたところできっと遊び相手にしかならない。 常磐さんへ向ける感情がとても無謀で現実味のないことに思えてきた。そもそも憧れなのか恋なのか、自分で判別すらできないし――。 「……ちゃん。依ちゃん!」 「はいっ!?」 「わ、びっくりした。なに、悩みごと?」 いつの間にかカウンターに来ていた常磐さんは笑っている。見ると、洗っていたはずの洗濯物はすでに大きな袋に収まっていた。 「女子大生にもいろいろあるんですうー」 「そりゃそうだ」 あはは、と常磐さんは笑った。この人には笑顔が似合う。笑うと両頬にえくぼができる。この人の歌で元気をもらえる人はきっとたくさんいる。なのに離婚ってどうしてだろう。常磐さんが原因って、常磐さんの何が悪かったんだろう。 「それ、TOMOSHIBIの衣装?」 「そうです。仮衣装を作ったときにチュールも入れたら可愛いかなって……ついでにスパンコールも足してます」 「ふうん」 黒のチュールに黒のスパンコールをひとつひとつ縫い付けていく。何重にも重ねたそれらは、ステージ上の灯里ちゃんをより綺麗に魅力的に輝かせてくれるに違いない。 「ねえ、依ちゃん」 黙々と作業する私に、常磐さんはもったいぶるように声をかけた。 「明日、一緒に海でも行かない?」 私は顔を上げた。 「二人きりで」 私がぽかんとしていると、常磐さんはへへ、とはにかんだように笑った。
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