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まだ聴きます? 聴くんですか? じゃあ、その先の話をしますね。 その後、うち、倒壊したんですよ。 逃げられたはずないでしょう。だって、ずっと外に出たくなかったんですから。今さら突然外に出れるなんて運のいいことあるはずありませんよ。 倒壊したんです。 もちろん、自分はその下敷きに。 その時、あの歌が聴こえたんです。楽しそうな、やりきった感じの清々しい声が歌っていました。確かに上から聴こえていたあの歌声でした。 それでね。気づいたんですよ。 歌っていたのは「家」だったんです。 もうすぐ倒壊する、寿命を終える家が、もうそこに立っていなくてもいいという安心感で歌い出していたんです。 でも邪魔されて怒った家は。 本当はね。逃げようとしたんです。 でもどれだけドアを開こうとしても開かない。鍵なんて付いていないのに。 他の家族は用事で外に出ている。自分だけなんですよ、家に残っているのは。 それだけ、怒っていたんですねえ。 最後に。 あの歌、自分が幼児だった頃に流行っていた一番好きな歌でしたよ。 昔、繰り返し繰り返し飽きるなんて知らないで歌い続けたあのフレーズ。いつの間にか止まってしまった。時間が経って大人になって、ガキくせえって止めてしまったあのフレーズ。 覚えていたんですね。 忘れていたはずなのに。 ああ、ほんとに。 ほんとに、もう。 楽しかったなあ、あの頃は。 あの頃だけは楽しかったのに。 その時のこと、家だけはずっと見守っていてくれたんですね。忘れないで歌ってくれてるなんて。 でもね。でも。もう、いいやって思うんですよ。 もう、いいや。って。 全部、ぜーんぶ、終わり。 思い出は優しいまま崩れ去った。 歌が聴こえる。 何処から聴こえるんだろう。 すぐ、近くから。 ああ、ほんとにもう。
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