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ここ最近、上からすごく楽しそうな歌が聴こえるんです。 部屋に居続けるこんな日だから、どうです。こんな話でも。 最近、どうしても部屋から出たくなくて。それは天気が悪いからとか、仕事がうまくできないとか、勉強友達その他が全部嫌だとか。理由はないけどとにかく外に出たくない。部屋にいたいわけじゃないけど、外は嫌だ。 そんな日が続いていたんです。 もう、気分は最悪で、体調も悪くなっていく。病気でもなんでもないんですよ。体が心に引き摺られてどんどん下降していく。悪い方へ悪い方へ、落ちていく。 そんな時ですよ。 上から陽気な歌声が聴こえてきたのは。 何処かで聴いたことがあるかもしれない。曲名は思い出せない。でも次のフレーズはこうだろうな。ああやっぱりそうだった。そんな感じの歌が上から聴こえてきたんです。 もしかしたら気づいたのはその時だけど、もっと前からそれは歌っていたのかもしれません。とにかく気づいたのはその時が最初でした。 ああ歌っているな。そう気づけば次の日も次の日も耳を立てます。毎日上から歌は聴こえます。楽しそうな、もう楽しくて楽しくて止められないみたいな声でした。 ただ、それは上から聴こえているんですよね。外じゃなくて、上から。窓の外からじゃないんですよ。例えば、上の階だとか上の部屋。もっと言えば二段ベッドの上の段。上から歌は聴こえてきているんです。 ちょっと不思議だな。そう思わなかったとは言いません。 でも気にならないくらい、歌はすごく楽しそうなものだった。誰が歌ってるとか、何処から聴こえてるなんてどうでもいいんです。 それに、自分がどうこうしたってその歌は止まらないでしょう。歌ってるのは自分じゃないんですから。 歌いたいから歌っている。まさにそんな感じの歌でした。 不快じゃありませんよ。ずっと聴いていても飽きない。 停止ボタンを押そうなんて思いません。でも、ある時やらかしてしまったんですよね。 ほら、曲に馴染むと歌っちゃう。そんな時、あるでしょう。 歌っちゃったんです。その声に合わせて。 歌は一瞬で止まりました。 静かになった部屋で、やらかしたと気づいたのはその直後です。 その歌を聴いたのは、それがラストでした。ラストソングって後を引かないものなんですね。本当に最後になってしまった。 声の主はね、一人で歌いたかったんですよ。それを他人に邪魔されて。 きっと怒ったんです。もう聴こえてこない歌を思い出しながら、悪いことをしたなと今でも思います。 上から聴こえていた歌の話です。 結局、何処から聴こえていたんでしょうかね。誰が歌っていたんでしょうかね。 うち、上の部屋なんてないのに。 今考えるとね。あれは本当に歌だったのかと思うんです。 歌じゃなかったかもしれない。 屋根裏のネズミか? 屋根を叩く雨の音か? それとも鳥が外で何かをして遊んでいる? 確かめようはないです。だって、せっかくの歌を止めてしまったのはこの自分なんですから。 そういう話です。
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