天使の歌声は永遠じゃない

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 それをきっかけに、空は愛良(あいら)と話すようになった。主に彩羽(いろは)の事で。  「そういえばあんたの声、彩羽(いろは)くんに似てるわね…?」  「えっ…」  「まさか、彩羽(いろは)くんだったりして…っ?」  見つめてくる愛良(あいら)。 空が(まばた)きした直後、愛良(あいら)が笑う。  「なーんて、そんなわけないわよね~。 あんたみたいなのが彩羽(いろは)くんな訳がなかったわ~。」  「どういう意味だよ…?」  「そのままの意味よ。彩羽(いろは)くんが、あんたみたいなちんちくりんな訳がないって事。」  「全く…深水はいつも僕をちんちくりんって…。彩羽(いろは)もあまり背が高くないらしいよ?」  「そうなの?まあ、私は男性を身長で判断する女じゃないもの。それに、私はちんちくりんも嫌いじゃないわよ。」 本当だろうか。彩羽(いろは)の事を意識していってるのではないか。 いつもの事だった。からかわれるのにも慣れてくる。  最初は苦手なタイプだと思っていたのだが、話す内にその印象は不思議となくなっていった。  空の声は少しずつ、自分でも気づかない程度に日に日に変化していくのがわかる。 ボイトレの際に、前なら無理なく出せていた音程を、無理をしなければ出せなくなっていくのを感じたから。 きっとこれからは、無理をしても出せなくなる。  焦る気持ちはあったが、愛良(あいら)と話している時は、不思議と少し気が紛れた。 人知れず、愛良(あいら)の明るさに助けられ、勇気を貰っていたのかもしれない。  「…深水は何で彩羽(いろは)が好きなの?」    ある日の放課後に何気なく聞いた時、愛良(あいら)が目を(またた)かせた。  「急にどうしたのよ?」  「なんとなく気になって。 深水は凄い熱心に彩羽(いろは)を推してるでしょ?他の子は、最近話題になってるからって感じだけど。」 空はずっと気になってた事を問う。  愛良(あいら)は言うのを躊躇(ためら)うような素振りを見せた。 意を決したように口を開く。  「私、中学生の頃、いじめられてたの。」  「…深水が?」  それが彩羽(いろは)と何の関係があるのかとも思った。 しかし意外だった。愛良(あいら)の事だ。昔からいつだって、クラスの中心にいたようなイメージがあったから。  「ほら、私、たまに空気が読めないところがあるでしょ?目付きが悪いとか言われたりしてさ。無視をされたりとか、ちょっとした嫌がらせを受けてたの。 …それで不登校になって、何もかも嫌になって、いつも消えたいって思ってた時、彩羽(いろは)くんの歌を聞いたの。」  「…そうなんだ。」  「彩羽(いろは)くんの歌声は優しくて温かくて、同時に力強くて…。初めて聞いた時、恥ずかしいけど号泣したわ。 あの声と歌を聞いた時、私は思ったの。 嫌な事があっても、もう少しだけ頑張ってみようって。逃げずにやってみようって。 彩羽(いろは)くんの歌声に、私はいつも励まされて、勇気を貰っていたの。 間違いなくあの時、彩羽(いろは)くんが居たから、今の私はいるって断言できるわ。」
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