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愛良は穏やかな笑みを溢していた。
愛良は当然、空を彩羽だとは思っていない。
情けないかもしれないが、そんな風に言ってくれるだけで、嬉しくなってしまう空がいた。
これだけ熱心に彩羽の事を好きでいてくれる人もいる。
声変わりする前に、ファンにとっても綺麗な彩羽の印象のまま終われる内に、いっそ歌手を辞めてしまうのもありなのではないかと思っていた。
愛良が熱心に彩羽を推してるのを見ていたから、そちらに選択が傾きつつあったのも事実だ。
だが愛良の言葉で、もう少し続けても良いのではないかと、空はその時、思わされた。
愛良が彩羽の声で救われたように、空もまたその瞬間、愛良の言葉に救われていたのだった。
「あ、今度、彩羽くんのコラボカフェが出るでしょ?付き合ってよね。」
「うん、良いけど。偉い人が集金したくてグッズをたくさん出した奴…?」
「グッズが何種類出てるか、もうそこまで情報出てたっけ…?」
「掲示板ではそういうリークがあったんだよ。うん…。」
空は目をそらしつつ適当に誤魔化す。
まだそこまで情報は出てなかったようだ。
「なるほどね!お金ならバイトで貯めてあるから大丈夫よ。あんたは別に無理しなくても良いけど、私はコンプするわ!」
愛良は嬉々として言っていた。
ラジオのゲストで空はその日、彩羽として呼ばれていた。
死ぬほど緊張したが、パーソナリティーの人が空を気遣ってくれたので、無事に彩羽として話す事が出来ていた。
いくつか答えている内に、ある質問が投げられる。
「彩羽くん、最近あった出来事で、最も印象に残ってる事はあるかな?」
パーソナリティーの質問に、空は頭に浮かんだ事を口にする。
「そうですね。最近、仲良くなった友達が凄く明るい子で、自然体でいられると言うか…。話していて凄く楽しいんです。」
「その子は彩羽くんだって知ってるのかな?」
「いえ。僕が彩羽だと知ってるのは親類だけなので。
その子とは僕が彩羽のグッズを落としたところを拾って、声かけてきてくれたのがきっかけで。」
「じゃあその子とは親友って感じなんだ?」
「そうです。今度、彩羽のコラボカフェにも行く感じでして。」
「本人がコラボカフェに行くことがあるの!?」
パーソナリティーの人が話しやすくてつい言ってしまったが、愛良がこれを聞いたら、空が彩羽な事がバレてしまうかもしれない。
楽しくてつい言葉が出てしまった。
まあ、さすがに似たような事例など他にもあるだろう。大丈夫だ。と、空は軽く考えていた。
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