天使の歌声は永遠じゃない

5/9

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
 「睦実(むつみ)、話があるんだけど!」  眉を上げて、腰に手を当てて言う愛良(あいら)に、空は『あ、終わった…。』と思った。  「お!深水、睦実(むつみ)にコクるのか!?」  「うっさい!あんたには関係ないでしょっ!?」  八つ当たり気味に怒りをぶつけられるクラスメイトを不憫に思いながら、空は愛良(あいら)に言われるままに、空き教室に向かっていた。  「この前の彩羽(いろは)くんのラジオ、聞いたわ。」  「そ、そうなんだ…?」  「あれ、どういう事っ?どう見ても、わ、私の事よね…?そうなると…その…あんたが…」  言いかけて、しどろもどろになる愛良(あいら)の顔は、真っ赤だった。 空は腹を括るしかないと、(うなず)いていた。  「黙っててごめん。彩羽(いろは)は僕なんだ。」 目をそらされ、黙り込む愛良(あいら)。 当然だとも思った。 身近にいた陰キャが、憧れの彩羽(いろは)だと気づいて、さぞ幻滅した事だろう。  愛良(あいら)は特に熱心に彩羽(いろは)を追っていたから。  「…どこかで、こんな事だろうとも思ってたわ。」   愛良(あいら)は涙目だった。  「騙すような形になって、ごめん…。 僕なんかで、ごめん…。」  愛良(あいら)がズカズカと向かって来るかと思えば、胸ぐらを掴まれる。 愛良(あいら)の瞳が空を捉えていた。  「私は怒っているわけじゃない。悲しいの。むしろ、一周回って腹が立つわ。 …あんたと友達だと思ってたのは私だけだったの?どうして、空が彩羽(いろは)だって言ってくれなかったの?私がそんなんで、幻滅するとでも思った?空と彩羽(いろは)を嫌いになるとでも思った?」 怒っているのかと思った。  だが、涙目の愛良(あいら)に目を向けた時、彼女はただ悲しげに空の事を見ていた。 掴まれた手が離される。  「…もう、いいわ。私、馬鹿みたい。」  「深水、待っ…」  愛良(あいら)は空から目をそらし、目を伏せて、空き教室を出ていった。 今さら気づいた。自分が凄く嫌な事をしていたのだと。 だが、言えなかった。 愛良(あいら)に言われた言葉は、全て核心を突いていたから。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加