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「睦実、話があるんだけど!」
眉を上げて、腰に手を当てて言う愛良に、空は『あ、終わった…。』と思った。
「お!深水、睦実にコクるのか!?」
「うっさい!あんたには関係ないでしょっ!?」
八つ当たり気味に怒りをぶつけられるクラスメイトを不憫に思いながら、空は愛良に言われるままに、空き教室に向かっていた。
「この前の彩羽くんのラジオ、聞いたわ。」
「そ、そうなんだ…?」
「あれ、どういう事っ?どう見ても、わ、私の事よね…?そうなると…その…あんたが…」
言いかけて、しどろもどろになる愛良の顔は、真っ赤だった。
空は腹を括るしかないと、頷いていた。
「黙っててごめん。彩羽は僕なんだ。」
目をそらされ、黙り込む愛良。
当然だとも思った。
身近にいた陰キャが、憧れの彩羽だと気づいて、さぞ幻滅した事だろう。
愛良は特に熱心に彩羽を追っていたから。
「…どこかで、こんな事だろうとも思ってたわ。」
愛良は涙目だった。
「騙すような形になって、ごめん…。
僕なんかで、ごめん…。」
愛良がズカズカと向かって来るかと思えば、胸ぐらを掴まれる。
愛良の瞳が空を捉えていた。
「私は怒っているわけじゃない。悲しいの。むしろ、一周回って腹が立つわ。
…あんたと友達だと思ってたのは私だけだったの?どうして、空が彩羽だって言ってくれなかったの?私がそんなんで、幻滅するとでも思った?空と彩羽を嫌いになるとでも思った?」
怒っているのかと思った。
だが、涙目の愛良に目を向けた時、彼女はただ悲しげに空の事を見ていた。
掴まれた手が離される。
「…もう、いいわ。私、馬鹿みたい。」
「深水、待っ…」
愛良は空から目をそらし、目を伏せて、空き教室を出ていった。
今さら気づいた。自分が凄く嫌な事をしていたのだと。
だが、言えなかった。
愛良に言われた言葉は、全て核心を突いていたから。
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