天使の歌声は永遠じゃない

7/9
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
空は目を(またた)かせていた。 向かってくるのは愛良(あいら)だった。 ズカズカと向かってきた愛良(あいら)が、座った空の事を見下ろした。 どう見ても怒っていた。  「深水?急にどうし」  「どうしたもこうしたもないわよ!休業するってどういう事!?」  「今さら知ったの?ちょっと前に告知したはずなんだけど…」  「わ、私もあんたに言いすぎたと思って落ち込んでて、最近新作のMVを見たところだったの! 声変わりしてて驚いたけど、でも彩羽(いろは)彩羽(いろは)だった。 優しくて温かくて、力強くて…やっぱりあんたの声は凄いわ。勇気付けられるものがある。やっぱり唯一無二だわ。 なのに、休業って聞いたから、驚いて来たんだから!」  愛良(あいら)に捲し立てられて、空はふっと笑みを溢す。  「なに、笑ってるのよ…?」  「やっぱり、深水は凄い。…僕が欲しい言葉をくれるから。」  空が(つぶや)くと、愛良(あいら)の頬が赤く染まる。  「凄いのは、あんたよ…。 私もこの前はごめんなさい。自分勝手だったわ。言えるわけないわよね…私みたいな激重ファンに、実は彩羽(いろは)なんですって。」  「気にしてないし、言われた事は事実だったから。大丈夫。」 愛良(あいら)は安堵したように息を吐いていた。  「彩羽(いろは)に嫌われるのも嫌だけど、何より空に嫌われるのは本当に嫌だったから…良かったわ。 …でも、新曲の方向性を急に変えすぎよ。 指示したのは誰? だから古参のファンほど困惑してるのよ。 今までの方向性を維持しつつ、成長した風に持っていけば、きっと他のファンも受け入れてくれるはずよ。少なくとも私はそっちの方がウケると思うわ。」  やはりオタクなのか、捲し立てる愛良(あいら)に、空はひたすら笑みを溢していた。  「これでも僕は今、休業してるのに…。」  「休業してる暇なんてないわよ。声変わりして大人になっていく彩羽(いろは)。きっと、ファンも喜ぶわ。 これでも文句を言う人もいるかもしれないけど、それも人気な証拠だとも思うから仕方ないわ。 空、勇気を出しなさい。少なくとも私はあんたの声に勇気付けられたんだから。 勝手に休業だなんて、認めないんだから。」  もう歌手は諦めようと思ってた。 このままフェードアウトしていこうと考えてた。 だが、熱心なファンが身近にいたばかりに、空は覚悟を決めた。 他でもない。空自身がそうしたいと思ったから。    「ありがとう、愛良(あいら)のおかげで僕も頑張ろうって思えた。」 愛良(あいら)(まばた)きした。  「今、名前で…」  「愛良(あいら)だって僕の名前を呼んでるじゃん。」  「…ッ、ま、まあ、良いケド。…特別よ?」  「なにが特別なのかわからないけど、わかった。」  「こっちが優しくしてあげたらあんたは…ッ」
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!