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空は事務所に連絡して、休業を撤回したい旨を伝えた。
迷惑をかけたとも思ってる。自分のせいで多くの人に迷惑をかけたと。
だからこれからは一層励むとも伝えた。
事務所は空を売りたかったらしく、思いの外すぐに新曲が発表され、あっという間にMVが配信された。
空は恐る恐るSNSを見たが、愛良の言う通りだった。
方向性を維持しつつ、声変わりして成長した彩羽の歌声は、長年追ってきたファンの心を再び掴んだだけじゃなく、新たなファンをも生んだ。
『高い声も良かったが、意外と低い声も彩羽が大人に成長したのだと思うと、悪くなかった。』
概ねそんな評価で、空は救われた。
「昨日の音ステ、見たわよ!凄いじゃない!あれだけ一流のアーティストが出る番組に呼ばれるなんて。
あんたも気づいたら、大きくなったわね。
まだ多少ちんちくりんだけど。」
休憩時間に空が屋上にいた時に、愛良が勝手にやってきたのだ。
語る愛良は相変わらず熱心だった。
「ちんちくりんは余計だよ。それに顔を映せないから、僕だけ収録だし。」
「凄いのは変わりないわよ。いずれ、どっか遠くに行っちゃうのかしら…なんてね。」
空は愛良を見つめていた。
愛良が頬を微かに赤らめ、狼狽える。
「な、なによ?」
「僕は遠くには行かないよ。それに、頑張れてるのは、愛良のおかげだから。」
愛良の顔がいよいよ真っ赤に染まる。
「そ、空のクセに生意気よ!」
「思ったことを口にしただけなのに…」
「だとしたら軽薄男ね!あーあー!知りたくなかったわ。彩羽が軽薄野郎だなんて。」
「酷い言い種だよ。そもそも、愛良は僕の歌声が好きなんでしょ?」
「ええ、そうよ!だったら関係なかったわね!軽薄でも!」
「なんで怒ってるの?」
「怒ってないわ。」
「怒ってるよ。」
「怒ってないったらッ」
彩羽として続けようと思ったのは愛良のおかげ。
今の空がいるのもまた、愛良のおかげだが、気恥ずかしくて、それは告げられそうになかった。
せめて、愛良の勇気の源になれるように。
こんな自分の歌声でも生き甲斐だと言ってくれるファンの為に。
今後とも歌手、彩羽として、空は頑張っていこうと思ったのだった。
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