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そして……
「え、お母さん、結婚してないの?」
「してません」
隣の席に移動してきた美織ちゃんに言われてとりあえず答える。
「私を産んだのが十四だから……三十ニでしょ?彼氏は?」
「……居ません」
「えー?何で!!そんなの私の方が先に結婚しちゃうよ?」
「美織、失礼でしょう。落ち着きなさい」
グイグイ来られるのを精一杯答えていると、久住さんが間に入ってくれた。
「や、だって!気になるじゃん!」
「自分の好奇心だけで話さない!」
「いっつもそれ!」
「そう思うなら少しは聞きなさい」
久住さんには申し訳ないが、この美織ちゃんの反応は確実に新也だ。
あれから新也とはしばらく付き合っていたが、やはり申し訳なくてさよならを選んだ。
別人のように私を気遣って手さえも繋がないでいてくれた新也。
実は優しかった新也に久々に触れて、それは嬉しかった。
今、会うことはないが、噂で新也もまだ結婚していないと聞いている。
「ねぇ!美作伊織の“美”と“織”で美織って……凄くない!?」
ぼんやり考えていた私にまた美織ちゃんが話しかけてきて八ッとした。
「いや、むしろ……よかったんですか?」
恐縮すると、久住さんは姿勢を正す。
「美作さんには本当に感謝してるんです。美作さんは苦しんだと思いますが、そのお陰で私は美織に会えたので。だから、どうしてもあなたの字をこの子に付けてあげたかったんです」
慈しみの目を美織ちゃんに向けるのを見て、美織ちゃんが本当に心から愛されていると実感した。
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