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「伊織?」
再び寝ていたのか目を覚まして声がする方に目をやる。
すると、メイクが崩れていてもそのままのお母さんが覗き込んできて私の手を強く握った。
「私……」
「もう終わったから……忘れなさい」
「え?」
「大丈夫。少し入院して退院したら元の生活に戻れるから」
涙声で歯を食いしばるお母さんの言葉の意味が理解できない。
いつの間にか無意識に触るようになっていたらしいお腹に手をやって、あの膨らみもないことに気づく。
グッと中から押されることもない。
自分とは違う生命の気配が……
「……居ない」
ぽつりと呟くと、お母さんは目を見開いた。
「居ないのよ!最初から!!まだ中学生だもの!!居るはずないのよ!!おかしいでしょ!?」
取り乱すお母さんの声に気づいたのか看護師さんたちが入ってきて、お母さんは部屋から出される。
「大丈夫?少し様子見させてね」
看護師さんに聞かれて頷くと、聴診器を当てられたり、脈をみられたり……そこで腕に点滴が繫がっていることにも気づいた。
「あの……あ、赤ちゃんって……」
そろりと声を出すと、看護師さんは少し困ったように眉を寄せる。
「気になるよね。後で説明はしてもらえるから……今はもう少し横になって休んでもらえる?」
すぐには教えてもらえなかった。
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