僕の知らない唄

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 雨は、僕が最初に訪れたときよりも強くなっていた。彼女の言葉に反論しようと開けた口に雨水がはいり、上手く話すことができない。視界はすぐに水滴によって滲んでしまう為、僕は何度も顔を拭った。そうしている間に、彼女の方から口を切った。 「さっきの歌を歌っていたのは、私の歌があれしかないからだよ。あれ以外は作ってないから」  僕は雨を防ぐ為に両手を額にくっつけて屋根をつくった。 「だったら歌ってよ。最後に作った大切な歌なんだよね?」 「人殺しの歌なんて大切じゃないよ」 「でも……」  僕が言いかけた瞬間、空に閃光が走った。遅れて、世界が怒り狂っているような轟音が響く。落ちてくる雨は更に量を増している気がした。僕は、雷の勢いで海がひっくり返ったのかと思った。だが水平線はまだ空と海を割いていて、海は眼下で波打っている。  彼女は突然落ちてきた雷に物怖じせずに空を仰いでいた。そして、ハミングであの歌をうたった。厚雲を突き抜けて月まで届きそうなほど、透き通った音色だった。
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