のびる のびる のびーる

1/1
前へ
/1ページ
次へ
「おはよう、朝よ」 「やだ、眠い」 「どれ。のびる のびる のびーる」  小学校低学年くらい迄、母が起こしに来てくれて脚、腕、お腹って順番に(さす)ってくれた。子供が大きくなるようにって、願いを込めたおまじない。  全身の血行が良くなるのか、気持ち良く起きられる。  その後母は、そっと右手を包み込んで、(ささや)くように薬指を撫でる。 「のびろ のびろ のびーろ」  ハイハイをしていた頃、ポットを倒して火傷(やけど)した。一番酷かった右手の薬指は、足の裏の皮膚の一部を、パッチワークした。ちょっとだけ成長が遅く、骨の成長の方が早かったので、猫背気味の薬指を母は気にしていた。  子供の火傷は親の責任。ずっと悔やんでいた母は、大人になっても私の右手をとっては、小さな声で呟いていた。 「のびろ のびろ のびーろ」  お母さんありがと。ほら、ちゃんと伸びてるよ。見て。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加