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「俺、練習無理だって言ったんですよ。朝夕とバイトあるし…… そうしたら、竹本が『バイトとクラスどっちが大事なの!?』って泣き喚いたんです」
「お前は生活かかってるもんな。バイトって言ってもいいと思うぞ?」
「あたりまえじゃないですか。でも、竹本は言いましたよ『学生は学校行事(クラス)の方が大事に決まってる!』って。俺がバイトしてる新聞販売店に電話して、俺を休ませるように交渉したんですよ。次にウチにやってきて病床のオフクロにも『秀成君に合唱の練習をさせて上げて下さい』って交渉してきましたよ。ウチのオフクロ、ずっと病床で気の強い人じゃないんで押されちゃいましたよ……」
「成程、それで合唱の練習に参加出来てた訳か。それで、バイト先は何を言ってたんだ? 練習するだけ給料が減るんだからあっちも心配しただろう?」
「テスト前は休みくれるんで…… それが少し増えるだけと納得した感じでした。でも、実際は今月の給料少なくて生活辛くて……」
井藤先生は秀成のことを心から慮った。だが、教師の立場としては話を聞いてやることしか出来ない。自分の無力さを呪うばかりである。
「男子勢はこれに腹を立てて、当日に叛逆したと言うことだな。このあたりは先生も話をしなかった責任があるな。大久保、すまない」
謝って貰っても足りない生活費の補填がされる訳ではない。秀成は冷ややかな目で舞香を睨みつけながらゆっくりと席に就いた。
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