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「次に女子だ。女子はこういったことはやる気あるものなんだけどなぁ? もしかして大久保の件で一緒に叛逆しようと考えたのか?」
一人の女子が挙手を行った。フィリピン人ハーフのギャル系女子、水口友里沙(みずぐち ゆりさ)である。
「私達、別に大久保っちのことなんて知ったこっちゃないしー? 練習も真面目にやってたから優勝もしたかったよー?」
「お前も歌ってなかったよな? どうしてそんなことしたんだ!?」
「先生? 今日、中邨っちがどうして休んでるか連絡受けてますかー?」
本日の合唱コンクール当日、三年一組には一人の欠席者がいた。中邨友恵(なかむら ともえ)、クラスの女子のムードメーカーで人気者である。
「風邪引いたと、今朝親御さんから連絡があったぞ」
「中邨っち、私が言うのもアレなんだけど…… メッチャ音痴なんよ。カラオケ呼んでも絶対来ないレベルなんよ。一回、強引に呼んだことあったけど、歌わずにタンバリン叩いたり、マラカス振って盛り上げ役に徹してたよ」
「人前で歌うのが苦手と言うことだろう」
「それで、大島さんも竹本さんも『音程の合わせ方』とか『緊張しない方法』とか中邨っちに教えてたよ。同じように悩む女子にも教えてた。男子にだって教えてた。私だって同じ、親が去年出稼ぎで日本に来て着いてきてるから日本語まだ危ういよー! でも、二人が一生懸命に教えてくれたから歌えるようになったよー」
友里沙はまだ日本に来たばかりで日本語がまだ辿々しいところがある(その割にはギャル語が達者なのは気のせいだろうか)。話の限りでは大島も竹本も皆を纏め上げていたのだろう。
それなのに、何故に皆は叛逆を起こしたのだろうか。井藤先生は首を傾げるばかりである。
「中邨っち、どうしても歌下手で皆に合わせること出来なくてさ。それで、一昨日になって大島さんと竹本さんが皆の前で中邨っちを詰ったの」
井藤先生は多香子と舞香の方に向き、尋ねた。
「何を言ったんだ?」
「「……」」
多香子も舞香も口を貝のように閉じ、沈黙を守る。友里恵は彼女達を冷ややかな目で見つめながら重い口を開いた。
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