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「なあ、皆が入るのだ。あきらめて早く入れ・・・」  巨大な門の前で門を見上げていると、大男たちが穏やかにそう言った。  大男たちは頭に角のような突起があり、髪の伸びた赤ら顔の、彫りの深い顔をしている。  欧米の大柄なプロレスラーのような男たちは戦闘服を身に着け、棍棒のような銃器を持って僕の前に立っている。だが、男たちは風貌と違って穏やかだ。周りを見るが、男たちを除けば門の前にいるのは僕だけだ。 「みんなって誰だ?誰もいないぞ・・・」 「何だって!他の者たちが見えないのか?」  男たちが慌てている。 「ああ。見えない。ここにいるのはアンタたちと僕だけだろう?」  僕がそう言うと、男の一人が戦闘服の襟から通信機を引き出して何か連絡した。 「ここはどこだ?この門は凄いな!」  僕は、もう一度巨大な門を見あげた。門扉も門柱を支える長い城壁も、一面に髑髏が埋めこまれている。所々に金色に輝く観音菩薩のような顔があり、その周りは髑髏だ。  門扉と門柱の凝った造作に、よくこんな物を作ったもんだと感心していると聞き覚えある声が聞えた。 「ここは現世と幽世の境界の難題門じゃ。以前も来たであろう?  お前、またここに来て、何をしておる?」  「わからない」  僕はここにいる理由がわからないのでそう答えた。声の主の言う事から判断すれば、ここは現世と幽世の境界か?そう思っていると、目の前に杖を突いた白髪の老人が現れた。以前会った僕の先祖の爺ちゃんだ。 「お前、忘れおったのか?ここは人生を終えた者が来る所じゃと話しただろう?  お前。また、まちがえて来おったのだぞ。ただちに手続きするよって、元の人生に戻れ」 「またって、以前も、僕はまちがってここに来たのか?」 「憶えておらんのか?守護霊を連れて現世に戻って、明美を妻にしたではないか?  まだ、幽世へ行く時期ではありはせぬ。手続きするよってに戻ってやり直せ」 「僕に何があった?」 「階段でコケおって頭を強打した。歳だから蛋白質を摂って運動しろと言っておったのに、何もせなんだによって、筋力が無くなったんじゃ。  元の人生に戻ったら、運動せいよ。小うるさい女房と、気の強い娘の事なんぞは気にするな。女ばかりに囲まれおって弱気になりすぎじゃ。まあ、儂の子孫だから、仕方なかろうて・・・」  爺ちゃんに言われて僕は気づいた。  中田恒夫の会社の二階で女房の愚痴を話しながら一杯飲んでいた。トイレへ行こうと思ったら二階のトイレに田沢徳男が入っていた。一階のトイレへ行こうと思って階段を下りたら足が滑った。そのままドドドッ、背中と後頭部をしたたか階段に打ちつけた。それで、後は朧・・・。 「ちょっと待ってくれ!僕を元の人生に戻せるなら、希望する年代に戻せるか?」 「ああ、できるぞ」 「そしたら・・・」 「わかっとる。今までの人生は、一応、区切りにするっちゅう事だな?それも良かろう。  ただし覚えておけ。平行時空間を精神と意識が転生しても、同一の時空間へ収束するのを忘れぬようにな。これはお前が導き出した、『平行時空間の統一場理論』ぞね」 「忘れてた。時空間構成要素は一時空間の変化に従う。他の平行時空間に置いても然り。 そうは言っても、どうすれば、良き人生になる?」 「自分の行動は自分で決めるのだ。たとえ身内であっても、人の行動はその者に決定させろ。自分の妻や子供にもだ。ああっ、いかぬ!」  そう言って爺ちゃんは、しまったと言う顔をした。 「未来を喋ってしもうたが、まあ、よかろう。そのつもりで生まれ変わるのだからのう。  では参ろうぞ・・・」  爺ちゃんがそう言うと爺ちゃんの前に神棚の社に似た大きな神殿が現れた。爺ちゃんは僕を連れて神殿に入っていった。 「こんなとこで寝てると風邪引くよ。早く起きなさい・・・」  母に起こされて目覚めた。僕は布団から転がり出て大きな神棚の前で寝ていた。いったいここはどこだ?周りを見ると畳の部屋だ。我家の十五畳の茶の間だ・・・。  慌てて起き上がってTVのスイッチを入れ、座卓に置いてある朝刊を見た。日付は・・・。僕は大学一年の夏休みに戻っていた・・・。
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