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一か月後、六月。
まだ梅雨入り宣言はされていないはずだったが、その日はしとしとと雨が降っていた。
「雨降ってるから今日はやだー。せっかくの土曜日い」
「今日行かなきゃ駄目!おばあちゃんたちとご飯食べる前に髪の毛ちゃんとしてらっしゃい。相変らず湿気で跳ねまくってるんだから!」
「ふわああい……」
別に歯医者のように嫌なことがあるわけじゃないのに、どうしてこう美容院というのは“面倒くさい”がついて回るのだろうか。美容室コルネットは自宅からだと徒歩十五分でけして遠くはないし、料金もシャンプーなどのオプションなしなら千五百円と格安である。雰囲気も悪くないし、やっぱり切った後はさっぱりして気持ちよいという気持ちもある。
それなのに足が遠のくのは、待たされる時間があるのと、その間他に何もできないのがつらいという感覚からだろうか。自分でもよくわかっていない。
土曜日だったので、今日は一時にはコルネットに到着することができた。当然まだ、受付終了の看板は出ていない。それから、美容師の数も土曜日は多いようだった。やはり土日は人を増やして対応しているということなのだろう。
「林田さん、こちらへどうぞー」
「はーい」
今日はロングヘアの美人なお姉さんが担当してくれるらしい。座った席は前回と同じ、奥から二番目の席だった。ふと隣を見れば、先日と同じ人だろうか、妙に暗い顔をした女性がカットクロスを着た状態で佇んでいる。
前回見た時より、少し髪がのびているようだった。ショートカットだったのが、ボブカットくらいの長さになっている。その髪の毛の端を、相変わらず暗い顔したお団子頭の女性がじょき、じょき、と切っている。
――この間と同じ人かなあ。
顔がよく見えないのでわからないが、なんとなくそんな気がする。あまりに纏っている空気が陰鬱すぎるので、見ているとこちらもネガティブになってしまいそうだった。
その日も普通に美人なお姉さんに伸びた分の髪の毛を切ってもらって終了。お金を払って帰宅したのである。ところが。
――ん、んん?
さらに一か月後。七月。今度は平日だった。五時前にコルネットに足を運んだ私は、またしても奥から二番目の席に案内され、髪の毛を切ってもらうことになったのである。
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