かみのけ、かみのけ。

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 しかもまた、一番奥の席、私の隣の席にあの根暗な空気の女の人が座っているのである。今度は髪の毛が肩くらい、セミロング程度までのびていた。じょき、じょき、と鋏を動かす音がする。お団子頭の美容師も、こちらを向く様子がない。 ――なんか、変だな。  翌月の、八月。さすがに、何かがおかしいと感じ始めていた。夏休みだったので、今回は平日の午前中に切りに行ったのである。ところが、またしても自分が案内されたのは奥から二番目の席で、一番奥の席に例の暗いロングヘアの女の人が座っていて、同じお団子頭の女性が髪の毛を切っているのだ。  流石に、異常だった。  髪の毛を一か月に一度くらい切りに行くのはおかしなことではない。だから、私と彼女が髪の毛を切るタイミングが重なるというのもまああり得る話だろう。  しかし、彼女はどう見ても大人の女性で、大人ならば基本的にはなんらかの仕事をしているはずで。そんな人が、土曜日に行っても、平日に行っても、違う時間に行っても私と髪を切る時間が合致するなんて、そんなことがあり得るのだろうか。  そもそも、どうして私はいつも同じ席に案内されるのだろう?  彼女は何故一番奥の席で髪を切って貰っていて、しかも同じ美容師なのだろう。  段々と怖くなってきて、私はその日ついに担当してくれる美容師さんに行ったのだった。この日は、少しダンディーなかんじのおじさんの美容師だった。 「あ、あの……私最近、いつも同じ席に案内される気がするんですけど、なんでですかね?」  何か、お店側の事情があるならそれで納得しようと思っていた。ところが。 「え、ああ、そうなんですか?嫌ですかね?」  おじさんはきょとんとして言ったのだった。 「ここ、結構人気ある席なんですけどねえ。ほら、一番奥だから右隣いないし、なんか気楽でしょ?」  一番奥。  右隣が、いない。 ――は?  私は思わず、自分の右側を見た。彼は、何を言ってるのだろう。私が座っているのは奥から二番目の席。私の右隣にもうひと席あるではないか。そこで今、女性が髪を切ってるではないか。 ――そ、そういえば。……なんで彼女の髪、切るたびに、見るたびに……のびるんだろう?
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