かみのけ、かみのけ。

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 じょき、じょき、じょき、じょき。髪の毛を切る音がする。暗い顔の女性の、骨ばった指がはさみを動かす。黒く長い髪の毛が、肩のあたりから切り落とされる。  最初はショートヘアだったはずの女性の髪。それが、毎回短く切ってるはずなのに、異様な速さでのびるのは何故なのだろう。一か月でショートヘアが、背中まであるロングヘアになるなんてそんなことあるのだろうか。 「……え、なんか見えるとか言わないでくださいよ!?怖いですから」  私が固まったのを見て、おじさん美容師がわざとらしくひっくり返った声を出した。 「う、うちの店で誰か死んだとかじゃないですからね!?噂聞いたのかもしれないですけど、うちじゃないですからね!」 「え?うちじゃないって……」 「この店ができる前、ここには違う美容院が入ってたらしいんですけど。駅前のせっかくいい立地なのにね、事故物件になっちゃってたんです。なんか、美容師の女の人が髪切ってたら、誤って客の女の人の首を切って殺しちゃったとかで……。いや本当かどうかわかりませんよ?そんなこと本当にありえんの?ってやつですし。俺たちもプロですから、間違えて人の頸動脈切るようなポカするはずないですもん。やるとしたら、マジでクレーマーで恨み持ってて、事故にみせかけて殺したとかじゃないかなと思うんですけどねえ」  まさか、と私は思った。  思わず、そろりそろりと彼女の方を観察してしまう。そして、気づいたのだ。  カットクロスの首筋から見えていたのは、赤いシャツではなく――血で染まった白いシャツだったということに。  その日を最後に、私は美容室コルネットの利用をやめた。もっと別のいい美容室を見つけたからと母に言って、少し離れたところの別の美容室に通うのを許して貰ったのだ。  多分、あの女性の髪の毛がもっともっと伸びて、地面につくくらいまでのびるところを見てしまったら――次はあの席に、私が座ることになっていたのではなかろうか。  あの美容室に最後に行ってから一か月後。私の夢枕に彼女が立ってこう言ったのである。 『あとちょっとで代わってもらえたのに』  と。
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