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例の会場ーー即ち生田家に私達は来ている。
「またお昼ご飯ご馳走になれるなんて嬉しい〜。あ、私。角川有紗です。ここに来るのは3回目!」
「俺は向井康介。生田の同期」
有紗は開き直ったのかキャピキャピしているし、向井とかいう新しい人は女装を解いて私を訝しげに見ている。
生田は作り置きのトマトソースで4人分のお昼ご飯を用意してくれた。思いがけず美食にありつけた有紗はテンションをあげる。
「わぁ、相変わらず美味し〜い!」
私は黙ってパスタを食べる。コクが出るまで煮込まれた玉ねぎと人参、そして絶妙なバランスのトマトと挽肉がプロ顔負けの味を引き出していた。
(美味しいのは認める)
私が完食したタイミングで生田は私に声を掛けてきた。
「やはりあなたしか居ない」
「なんですか?」
「俺はパスタを大事にしてくれる人と結婚したいんだ。パスタが伸びる前に黙って完食してくれる、君のような人を探していた」
なるほど。通りで有紗や他の友人達に声が掛からなかったはずだ。
「それなら、尚更私じゃない方がいいですよ」
私はナプキンを丁寧に畳んだ。
「私自身が伸びたパスタみたいなものですから」
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