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(何聞いてんだか)
気を取り直して、彼女を見送った後の弟に声をかける。1人しか居ない弟だ。肩の荷が降りた感覚。言うほど面倒を見てきたわけでは無いけれど。
彼の人生を私は一生は支えられない。だから、一緒に歩んでくれる人を見つけられたことを素直に喜びたいと思う。
「幸せになってね。人生は長いから、寄り添ってくれる人が居て良かった」
「同じように、俺も姉ちゃんに人生に寄り添ってくれる人が居ればと思うよ」
ハッとした。
私が結婚をしないという選択肢をとった場合、一番近い存在として迷惑を掛けるのは弟なのだ。
(その辺りは真剣に考えたことはなかった)
私の自分の生活に干渉されたくないという願いで結婚の有無を決めてしまうのは、果たして善なのだろうか。
*
(一度試すくらいは......しないと)
あの日、帰り道で生田は私を呼び止めた。
“三回だけ。三回だけ俺に時間をくれないか”
私は絶対にこの誘いを受けることはないと思っていた。
32歳は伸びたパスタだ。食べれるけれど、積極的に食べたいとは思わない。
それなのに、私はメモで貰った生田の連絡先を開いていた。アプリに要件だけを書く。
『先日の話、受けて立ちます』
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