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「織部さんは自分のこと伸びたパスタだって言ってたけど、伸びたパスタは伸びたパスタで活躍するところはあるんだ。例えばナポリタン。一晩寝かせて伸ばしてもちもちの食感を楽しむことだってある」 「でも、伸びてないパスタが好きなんでしょ?」 「本物のパスタはね。でも、比喩表現上では違うかもしれない」  製造工程や歴史の紹介はサッと流して、生田は私を見学者専用のレストランへと導いた。 「凄い」  ここでしか食べられない珍しい形や色のパスタを専門家が調理した特別なメニューだった。 「俺も一人じゃ来なかった。二人だからこそ食べれる食だってあるんだよ」 (気が合うのは今だけかもしれない)  そんなことはわかっている。  生田と私は住む世界が違う。  私は喪女で生田はこんなのでもモテ男だ。 (でも、今この瞬間は楽しいと思っているんだよなぁ) *  二回目のデートはまさかの有機農園だった。  “美味しいパスタには美味しい野菜が必要!”なんて言って。 「なんでシェフにならなかったの?」 「シェフは人に食べさせる仕事で自分が食べる訳じゃないだろう?」  とのこと。生田は本当に変な奴だ。  変な奴なのに悪くはないと思い始めていた。
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