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* (確かにこれは美味しい)  男の振る舞うパスタは絶品だった。  今日はフェットチーネ(平太麺のパスタ)を使ったカルボナーラ。ちょうど良い火加減のパンチェッタと濃厚なチーズとの絡ませ具合もプロのそれだ。 (これは確かにハマる)  連れて来た有紗達友人がワイワイと男と談笑したり、周囲で盛り上がる中、私は一切の雑談もせず黙ってパスタを完食した。  もう二度と味わえないパスタ。この味を舌に焼き付けねば。 (婚活男の執念パスタ、美味なり。せめて幸せな相手が見つかることを)  去り際に一言だけを残し早々に帰宅を決め込みたい。 「ご馳走様でした。とても美味しかったです」 「待ってくれ」  ハンドバッグを持って帰ろうとしたそのとき、男は私が出ようとしているドアをその屈強な腕で塞いだ。所謂ーー壁ドンである。 「君、名前は? また来てくれるかな」  訳がわからない。咄嗟に拒絶の言葉を出せたのは我ながら良プレーだったと感じる。 「いえ、私。彼氏居るんで」
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