36人が本棚に入れています
本棚に追加
*
(確かにこれは美味しい)
男の振る舞うパスタは絶品だった。
今日はフェットチーネを使ったカルボナーラ。ちょうど良い火加減のパンチェッタと濃厚なチーズとの絡ませ具合もプロのそれだ。
(これは確かにハマる)
連れて来た有紗達友人がワイワイと男と談笑したり、周囲で盛り上がる中、私は一切の雑談もせず黙ってパスタを完食した。
もう二度と味わえないパスタ。この味を舌に焼き付けねば。
(婚活男の執念パスタ、美味なり。せめて幸せな相手が見つかることを)
去り際に一言だけを残し早々に帰宅を決め込みたい。
「ご馳走様でした。とても美味しかったです」
「待ってくれ」
ハンドバッグを持って帰ろうとしたそのとき、男は私が出ようとしているドアをその屈強な腕で塞いだ。所謂ーー壁ドンである。
「君、名前は? また来てくれるかな」
訳がわからない。咄嗟に拒絶の言葉を出せたのは我ながら良プレーだったと感じる。
「いえ、私。彼氏居るんで」
最初のコメントを投稿しよう!