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むかしむかしあるところに、イーテンツオ王国という国に、美しくて、可愛くて、お菓子みたいで、宝石みたいで、お花みたいで、とにかく可憐なご令嬢がおりました。
むかしむかしあるところに、異形の者と恐れられ迫害された部族がありました。
ひっそりと暮らす鴉の里に、砂糖菓子のようなお嬢様が嫁いできた物語です。
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「本日からよろしくお願いいたします」
優雅な礼をしたのは、リヴィア・フェレール。
日の光に当たるとキラキラ透き通る髪と白い肌に、レースがふんだんに使われた水色のドレスはよく似合いました。彼女の耳や首元には宝石が輝き、甘い香りが漂っています。
ですが、この場は舞踏会の会場でも、貴族の邸宅でもありません。
平民の住む里でした。ドレスの長いトレーンが動くたびに、土ぼこりがたちました。
「本当に来たのか」
呆れた口調でリヴィアを見つめるのは、鴉の長・アキト。リヴィアの夫となる男です。
彼はイーテンツオ王国に住むどんな男性とも異なる容姿をしていました。
黒い長髪に黒くて鋭い瞳。黒い大きな鳥の羽。足は人間のものではなく、獣のように大きな鉤爪が光ります。
「ここに嫁ぐだなんて、正気か?」
「ええ。女に二言はございません」
黒の鴉。イーテンツオ王国より更に北の山を住処としている百名足らずの部族です。
半分獣のような、鳥のような、とにかく人間の姿とは大きく異なる異形の者として、忌み嫌われ不吉なものとして迫害されていました。彼らに闘争の意志はなく、ひっそりと山の中で暮らしています。
そんな鴉の里にやってきたのは、王都から出たこともない純真培養箱入りお嬢様でした。
変なことになった。アキトは天を仰ぎました。
まさかこんな貴族のお嬢様が嫁いでくるだなんて、夢にも思わなかったのです。
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