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むかしむかしあるところに美しくて、可愛くて、お菓子みたいで、宝石みたいで、お花みたいで、とにかく可憐なご令嬢がおりました。
彼女の名前はリヴィア・フェレール。フェレール公爵家の五女で、八人兄弟の末っ子でした。可愛い可愛いお嬢様は、愛情深い両親と優しい兄と姉に目に入れても痛くないほど可愛がられ、すくすくと健やかに育ちました。
そんなリヴィアですから、婚姻が可能となる十六歳になった頃には、たくさんの婚約の打診が届きました。彼女のデビュタントの日は一目彼女に会おうとたくさんの令息が足を運んだそうです。
しかし、十七歳になったリヴィアは未だに婚約者が決まることはありません。六人目の候補を家から追い出したところでした。
「リヴィア……! 彼の何が悪かったか父に教えてくれ。家柄的にも申し分ないし、誰が見ても彼のことは美しいと口を揃えるだろう」
フェレール公爵は眉を下げ困り果てた表情で娘に訊ねました。今回こそ、と思って用意した面会の場だったのです。
彼は大変に困っていました。愛娘を甘やかしすぎたと反省もしておりました。彼女を可愛い可愛いと愛で、彼女が望む美しいものを与え続けた結果、リヴィアの「可愛い」「美しい」の基準は天ほど高くなってしまったようです。どんな男性も「NO」と跳ねつけ「美しくない」と一刀両断です。
「彼のどこが美しいのかしら」
相手の前では言っていないからいいでしょう、とも言いたげなリヴィアは窓の外を見つめています。
「私にはお前の好みがわからん」
フェレール公爵は様々な男性を紹介したつもりです。見た目の美しさだけでなく、リヴィアに美しいものを与え続けることができる経済力のある貴族。爵位関係なく自身の力で成功した実業家。リヴィアを守ることができる騎士。
「お父様には見る目がありませんので、次は自分で足を運んで選びます」
「そうだ、近く王の生誕祭があるんだ」
「あら。それは楽しみですわね」
父の思惑から背を向けてリヴィアは窓の外を見下ろしました。お断りした男性がお帰りのようです。
彼らを見送りながら「はあ、本当に醜い」とため息をついたのでした。
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