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4 犬尾家へ
side狐光咲夜
俺は凛を連れて犬尾家にやってきた。
何故か?
それは美緒がダメにしてしまった書物の詫びをする為だった。
そう、金貨30枚の代物は、この家の3番手の犬尾颯の注文だったのだ。
「颯さん、品物が遅れてすまない。
全て俺の責任だ。
これ、チョコレート饅頭だが…」
俺は土産のチョコレート饅頭を手渡した。
「あぁ、どうも。
しかしなぁ?
咲夜さんが納期に遅れるなんて、初めてじゃ無いか?
何かあったのか?」
「…いや、ちょっとした手違いだよ。
それよりも、颯さん。
妖書を注文とは、ずいぶんと物騒な話じゃないか?」
そう、颯さんが注文したのは、妖書と呼ばれる妖怪の技や魔法が載っている書物だったのだ。
赤色の表紙で、俺が管理する書庫にしか置いていない。
「咲夜さん、万里絵の千里占いを知っているだろう?」
颯さんは茶を啜りながらそう言った。
「あぁ、もちろんだ。
万里絵の占いはかなりの確率で当たるからな。
それがどうかしたのか?」
「1番最近の占いでは、こう出たらしいのさ。
『近日、ある者の出現により、あやかし街に大きな災厄が降りかかる』
とね。」
「なるほど、それで、妖書という訳か。
しかし、万里絵の占いも百発百中というわけじゃ無いだろう?」
「万里絵曰く、今回のは当たる確率が高いらしい。
なんとなく感覚で分かるらしい。
もう、このあやかし街にもその噂は回っている頃だろう。
ある者が、何者かは分からないし、どんな災厄なのかもわからないが、備えに越した事は無いさ。」
颯さんはそう言った。
「そうか。
いや、とにかく注文は注文だ。
なるべく早めに代わりの書物を仕上げるつもりだから、少し待ってくれ。」
俺は言い、犬尾家を後にした。
ある者の出現…
まさか…
まさか…な…
俺は頭に浮かんだ考えを打ち消した。
そして、狐光書店に戻った。
丁度綺羅と美緒が書物を売っているところだった。
「おい、売れたのか?」
「はいぃ!
美緒さんの素晴らしい接客で、龍王の姫が売れましたー!」
「やだ、綺羅君の教え方が上手いのよー!」
2人は嬉しそうだ。
「そうか。
良かったな。
明日から俺は本作りに入る。
凛、綺羅、美緒の3人で順番に店を回してくれ。
さぁ、メシにするか。」
凛と美緒が作った簡単牛丼で、夜メシにした。
大きな災厄…か…
一体この平和なあやかし街にどんな災いが降りかかると言うのだろうか?
俺はまたしても頭に浮かんだある考えを打ち消した。
そして、あやかし街は夕暮れ、日が沈み、夜がゆっくりと更けていくのだった。
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