届け、この歌声

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 部活にも慣れてきた六月の中旬。  私の朝練は続いていた。肌寒かった早朝も今では丁度いい。日中は冷房が必要だけど、この時間ならまだ必要なかった。 「あ、あ、あ、あ、あーっ」  ピアノで弾くドミソミドの音に合わせて声を出していく。日々の積み重ねというのがようやくわかってきて、入部当時よりは声が出るようになってきた。  夏のコンクールは課題曲と自由曲があるけれど、私は課題曲が苦手だった。特にサビに入る前。フォルテの直前、どうしても力が入り過ぎてしまう。  先輩からリップロールしてみるといいよと言われて実践するけれど、思うように脱力は出来ていない。  合唱だからみんなと息を合わせてって考えすぎるのかな? まだ数えるほどだけど、バチッと呼吸が合ったと感じる時があった。その瞬間は本当に気持ちが良くて、どこまでも声が届く気がする。あの感覚を、もっともっと感じたい。  目をつむり、その時の事を思い出しながら、課題曲を歌ってみた。  ──カタンッ  小さいけれど、歌声以外響かないはずの音楽室で、その音は耳に響いた。  この部屋には私以外、誰もいない。聞こえたのは、音楽室の扉のあたりだ。 「……誰?」  姿が見えない相手に声をかけると、少し間をおいて、ソロソロと扉が開いた。 「ごめん。邪魔しちゃった……かな」  申し訳なさそうに頭を下げたのは、中庭にいた彼だった。
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