届け、この歌声

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 ──なんで? なんでなんで彼がここに!?  一方的に見つめていた彼と、まさかの対面になって思わず顔を隠したくなる。  もしかして、私の視線に気づいて迷惑とか、そういう事?  知らない間に嫌われてたとか!?  だけど一向に声を発さず戸惑っているように見える彼からは、私に対する拒絶のようなものを感じない。これは、嫌われていないって思っていいよね? 「……もしかして、中庭の人?」  なんて、本当は確信あるけど聞いてみる。  私の一言に、彼は目を見開いてこっちを見た。  あ、これ。私が彼を知ってるって気づいてないんだ、きっと。 「いつも気持ち良さそうに寝転んでて。いいなあ。私も寝転んでみたいなって思ってたの」  これは本当のことだ。  それぐらい彼は気持ちよさそうに横になっていた。 「気持ちいいよ。木陰はまだ涼しいし、誰も邪魔しないし、君の歌声も心地いいし」 「……え?」  私の歌声、届いていたんだ。  じゃああの時、目が合った気がしたのは、気のせいじゃなかったのかな?  思わずポロッと言ってしまったらしい彼は恥ずかしいのか、横を向いてしまった。  そんな彼を見て、嬉しくなる。 「ありがとう。そう言ってもらえて嬉しい。ね、もしよかったら、ここで聴いていく?」  私が彼を見ていたように、彼は私の歌声を聞いてくれていた。  心地いいって言ってくれた彼の言葉が、私の心をあたたかくしてくれる。  もっと、もっと伸びやかに歌いたい。  リップロールをしてもほぐれなかったのに、彼の一言が私の無駄な気負いを取り除いてくれた。
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