佐々山電鉄応援団 第2巻

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      ♢  片付けが終わり、会場を後にする。  長谷川君と西村さんは、近いうちに群馬に引っ越してくるそうだけど、今日は此処で別れた。  僕と美佳ちゃん、愛理は会場の前にバス停があるけど、あえて遠回りして歩く事にした。  前橋市の広瀬川沿い。  遊歩道がある。いわゆる回遊という奴で、街を歩く楽しさも、結果的にはマイカーだけに頼らない公共交通を使った健康増進と市内の街のにぎわいに繋がると思う。 「へぇ。川沿いの遊歩道かぁ」と愛理は感動しているし、美佳ちゃんは「前橋に来るときは、いつもママのクルマの助手席だからなぁ。前橋にも良い場所があるんだ」と意外そうな顔した。  たぶん、美佳ちゃんの言う保護者の送迎という子供の頃から、マイカー移動が当たり前という日常生活にインプットされた生活様式の変容が、今日の長瀞先生の言いたい部分だったかも知れないと、今になって気が付いた。  ザーッと心地よい堰から水が流れ落ちる音を聞いて、気分的に涼しい気持ちになる。  チリンチリン。自転車の乾いたベルの音。  僕と美佳ちゃん、愛理の脇を自転車が追い越していく。高校の制服を着た女子高生が追い抜くと、突然キュッと停止した。 「鈴木君?」  僕は驚いた。  飯田さんだった。  可愛いセーラー服風の制服。前橋市内の有名な私立の制服だ。 「えっ!鈴木君だよね?」 「飯田さん?」 「なんでメイド服なの?」 僕は、此処までの経緯を話した。 もちろん、喋って良い範囲のみだ。 「へぇ、凄いね。予知通り。インスタント・ハッピー・カンパニー研究所に入ったんだぁ」 「京子ちゃんのバーターだけどね」 「違うよ。バーターでも実力が無いと入れないよぉ」 「それで、飯田さんは?」 「あー。インスタント・ハッピー・カンパニー研究所を見に行ったら終わってた」  ガックリしている飯田さん。  「天才達の発表。そういうのを見て感化して頑張る活力にしたかったのに」  美佳ちゃんは、「もしかして。予知夢の子?」と僕に聞いてきた。 「うん」と答える。  「佐藤美佳です。このたびは予知夢で命拾いしました。ありがとうございます」  飯田さんは「あー。佐藤さんね。うんうん。助かったみたいだけど右腕は事故の所為?」 「あー。そうです。まぁ命が助かっただけ儲けもんです」と笑った。  愛理は「優ちゃんさぁ。前にも聞いたけど、飯田さんと混浴しなければ予知夢が作動しない訳よね。優ちゃんは入ったの?」  僕は頷いた。 「愛理とは嫌がってたくせに」と不貞腐れる。  飯田さんは「水着を付けていたし、温水プールみたいな物よ」と愛理に説明した。  飯田さんから、改めてインスタントハッピーカンパニーの桜庭支社長にスカウトのアピールをして欲しいと請願された。
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