佐々山電鉄応援団 第2巻

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― スカウト ―  夕方、僕はホテル鈴木のフロントカウンターに座っていた  ホテル鈴木に制服は無い。僕は、白のシャツに紺のズボン、愛理は通販で購入したウエイトレスの制服を好んで着ている。  当然ながら、インスタントハッピーカンパニーが宿泊する話になると、好奇心旺盛な美佳ちゃんが帰る筈がない。  愛理のウエイトレスみたいな服を借りて、如何にもホテル鈴木のスタッフという顔で、当然のようにフロントに立っている。  実は、群馬県立渋沢実業高校観光科も実習でホテルマンとしての授業もあるけど、渋沢温泉組合の仕来りで中学生以上のホテルや旅館関係の子供達は、宿泊業のイロハは叩き込まれているので美佳ちゃんもフロント業務は朝飯前。  美佳ちゃんは「なんかワクワクしてきた」とインスタントハッピーカンパニーの支社長と、今回の脱線事故を引き起こしたと思われる女子高生の到着を待ち侘びる。  忘れていたけど台風が来る。  夕方になって強風、雨が窓ガラスを叩くようになり天気予報通りになりそうだ。  インスタントハッピーカンパニーから連絡があり到着が遅れると連絡を受ける。  小湯線の電車は動いていないので、自動車でホテルに夕方4時過ぎに入るらしい。  午後5時前に、自動車がホテル前の駐車場に到着した。  美佳ちゃんは「来やがったな」と不敵の笑みを浮かべる。 「美佳ちゃん。お客様だからね。敵意は絶対に見せないで。スマイルだよ」 「解ってるよ。アタシも温泉街の子だから」  僕はルームキーとパソコンの入力画面を開いた。  自動ドアが開くとモデルみたいな綺麗な大人の女性と、赤い眼鏡のメイド服姿の女子高生が入って来た。 「酷い雨ね。なんだかんだで天気予報どうりか」と文句を言っている。 愛理がお出迎えをした。  赤い眼鏡のメイド服の女子高生はロビーのソファに座ると直ぐにノートパソコンを使い始める。  チェックインは、桜庭支社長がする。 「久しぶりね。昨晩、雨宮京子がインスタントハッピーカンパニーに来てね。 鈴木君と一緒なら入りたいって言うのよ」 「僕は要らないけど、仕方なく?」 「まさかぁ。あの時はそうだけど。今はインスタントハッピーカンパニーの計画を脅かす程の超重要人物。優秀なら潜入捜査やスパイ活動も自由にどうぞ。その代わり働いてもらうから。ウエルカムよ」 「承知して、僕と京子ちゃんを?」 「そうよ。優秀なら敵の罠でもオーケー」 「そんなんで良いんですか?」 「人材不足なのよ。RRMSは技術者はいるけど、交通政策とか事務仕事、プロポザール提案とかの資料が出来るのが居ない」 「そうですか」  プロポザールに参加という事は、何かのプロジェクトに参加するつもりらしい。 「猿山って知ってる?」  暫く考えてから、前に雨宮教授の勉強会で才能が認められて参加を承諾された当時の中学生だと気が付いた。 「はい」  僕は、京子ちゃんが認めた天才に興味がある。できれば会ってみたい。 「興味が出てきたみたいね」と不敵な顔。 「明日、東京来なさい。渋谷オフィス」 「明日ですか?」 「そうね。制服の採寸もあるし、研究の概要も知らせたい。興味があるなら来なさい」  猿山という人物には、嫉妬に似た感情がある。どちらにしろ潜入捜査の事もあるので、明日は東京に行くのは断れない。 「いきます」 「はい。お待ちしてます」 ホテルマンとしてチェックインの仕事を忘れていた。 「まさか男子だったとはねぇ」と呟く。  僕は「こちらにご記入を」と宿泊者カードを差し出す。美佳ちゃんが睨んでいる。  桜庭支社長は「ケガ大丈夫?」と問うと、美佳ちゃんは微笑みながら「おかげ様で、右腕をポッキリ折られました。とても不便です」と返答した。  美佳ちゃんは、たぶん素で相手を睨んでいるだけで、けっして演技ではない。  桜庭支社長からすれば、僕達が神林さんと京子ちゃんとアクセスしている事を、何処かで監視して知っていれば美佳ちゃんの睨みは、ある意味では自分達が仕組んだ事故を知っての嫌悪だと勘違いしているかも知れない。美佳ちゃんグッジョブだ。  お互い笑っているけど一触即発な空気。 「今日、担当させて戴きます鈴木です。お部屋の御案内をさせて戴きます」 「あっ。そうそう、RRMSチームのリーダーで南場智子。直属の鈴木君の上 司ね」  僕は「鈴木です」と挨拶をする。  南場智子は、席を立つと無表情で歩き出す。  桜庭支社長は、僕に「領収書はインスタント・ハッピー・カンパニー研究所でお願い」と言う。 201号室。  そして部屋に案内してから階段を降りてフロントに戻る。   特段、何もなく翌朝チェックアウトした。     
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