佐々山電鉄応援団 第2巻

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ー 前橋市へ ー   8月のお盆が過ぎた最初の金曜日。  僕は、インスタントハッピーカンパニーとして初任務遂行の指示を受けた。  群馬県の県庁所在地である前橋市に、美佳ちゃん、愛理で向かう。そして現地で長谷川君と西村さんと合流。  佐々山電鉄の電車は、全線で運行停止になっていて代行バスが運行されている。  始発の駅前に停車している観光バスの前に長蛇の列ができていた。  夏休みの温泉地ゆえ観光客と、普段から佐々電を利用している地元の人達が、わずか定員50名の観光バス一台に群がる。        普段は、乗降客が少なくて赤字の佐々山電鉄ですら電車の輸送人員を観光バスや路線バスに転換するのは簡単ではない。  実際に電車が動かなくなた事で理解する事になる。  僕も美佳ちゃん、愛理も早く家を出てきたつもりだけど、真夏の炎天下の中で、駅前で立たされていた。  次のバスが、いつ来るのかもわからない。 「つぎのバスはいつ来るんですか?」  美佳ちゃんが駅の人に聞くと、道路が渋滞しているのと、依頼しているバス会社もバスの運転士不足で運行台数を減便していると返答。  その話を聞き耳を立てていた男性が駅員に不平不満を言う。  観光客は諦めて携帯電話で動画を見ている。高校生は部活の練習に遅れると駅員に遅延証明を出してほしいと頼んでいた。 そして、炎天下で熱中症になりそうな高齢者は道路に座り込んでいる。  鉄道が赤字だからバス転換という現実の話は、こういう事を意味する。  30分ほど待たされて、“電車代行”の幕を掲げた古びた路線バスが到着した。 「なんだぁ、観光バスじゃないのか」と愛理はガッカリしていたけど、美佳ちゃんは喜んで写メを撮っていた。 「上信バスだ。絶対に渋沢温泉に来ない路線バスだよ。レアな奴」  バス不足、バスの運転士不足は深刻で、寄せ集めで群馬県内のバス事業者に頼み込んで配車して貰えたという事らしい。  たぶん、普段使いの営業車ではなく車検とかの予備車両らしく古い車両だった。  佐々電の駅前は、殆どがバスが入れない路地だったり、ロータリーが無いので駅前に繋がる県道の道路沿いに路上停車する。  当然、通行を堰止めするので道路渋滞。  それだけでなく、バスは停まる度に乗客が増えて車内は混雑して息苦しくなる。  沼川市内に近づくと、子供を抱いた母親が「乗せてください」と請願しても満員で積み残しで置いていく場面、車椅子の身障者が「乗車拒否だ」と叫びながらも駅前の臨時乗降場を発車する状況になった。  電車なら三十分程度の移動が、バス代行では一時間半を費やして佐々電沼川駅前に到着した。  バスを降りると美佳ちゃんは 「あー。夏休みでコレだよ。学校が始まったらパニックじゃん」と叫んだ。        ♢  JR沼川駅から上越線の電車で前橋駅まで向かう。一時間に一本の普通電車。  余裕で乗れた筈の電車は十五分前に発車してしまった。  路線バスで前橋駅まで行く手段もあるけど、今日は電車を使う事になっていた。  美佳ちゃんと愛理は学校の制服。 僕はインスタント・ハッピー・カンパニー研究所の制服を着ている。  飯田さんの予知通り、僕はインスタントハッピーカンパニーの研究員として京子ちゃんとメイド服を着て研究に従事する事になっている。  そして、ちょうどA4サイズの幅と厚みのある小さなトランク。 その中に、高性能なロボットを収納。  インスタントハッピーカンパニーの研究員になると全員が人形型の小型ロボットを貸し出される。  男子はロボット型で、女子は人形型のロボで、自体が専用のパソコンと連動していて何処でもプロジェクター機能が搭載されているのでプレゼンや討論が出来る。  小容量だが移動サーバの役割も果たす。僕のは女子用だ。  美佳ちゃんは、僕のロボを欲しがる。  でも、インスタントハッピーカンパニー以外は貸出禁止なので美佳ちゃんは悔しがっていた。  貸出厳禁。それはインスタントハッピーカンパニーは、常に誘拐や情報漏洩など様々な犯罪リスクと隣り合わせ。 また、情報管理する責任を背負っている。 だからロボが、研究員の背任行為抑止やデータ、情報漏洩管理もする。 他の人間が触るとロックが掛かる。 美佳ちゃんは、鉄道だけでなくメカ好き。 何処かで自力でロボを探すらしい。  愛理は「美佳ちゃん。探すっていってもロボットなんて簡単に落ちてないわよ」と笑ったけど、美佳ちゃんは心当たりがあると返答していた。  そんな美佳ちゃんに、昨晩ロボから電話が掛かってきたという。  内容は、美佳ちゃんの携帯電話に「佐藤美佳様。おめでとうございます。あなたはギャッピ市松の所有者として当選しました。これからギャッピ市松が参ります」という電話を着信したという。  愛理は「それ。恐怖のギャッピちゃんよね」と真顔で返答した。  顔が市松人形なのに、金髪の西洋ドール。しかもポッチャリした身体で怒った顔。  ギャッピ市松が訪れた家には必ず一ドル紙幣が残される。  僕も噂だけなら知っていた。都市伝説というか眉唾物のオカルト人形の話。  愛理は「確か。ギャッピちゃんから電話が掛かってきて、だんだんと自分の家に近づいてくる奴だよね。所詮は都市伝説よ」  美佳ちゃんは「そう、所詮は都市伝説だからね。届け先は、優と愛理の家を教えておいた」と笑い出す。  愛理は「なんでよ!」と怒りだす。 「所詮は都市伝説でしょ。来ないよ」 「個人情報とかさぁ。変な奴に勝手に住所教えるってさぁ。美佳ちゃん有り得ないよ」と愛理はマジで怒っていた。  僕は、本当にギャッピ市松が来た方が怖い。本当に美佳ちゃんは困った子だ。  それよりも、僕の恰好は恥ずかしい。  元・自衛官の叔父夫婦は、男子は男子らしくがモットー。女装なんかダメな筈だ。  今回の場合は逆に「日本の平和と国民の財産を守る為の任務だ。潜入は任務であり、どんな制服でも国のために闘うのならば戦闘服である」と僕を激励した。         
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