171人が本棚に入れています
本棚に追加
溢れる涙を堪えながら用意された馬車まで駆けて、王宮を後にする。泣きたかったけれど、ローゼマリーにはそんな時間は残されていない。明日には婚約破棄が決まり、国を追われるのだ。これをどうにかするしかないのだが、時間が足りなかった。
王子の言葉を皆は信じるだろう。ローゼマリーの主張など誰も信じることはなく、話は進んで国を追放される。両親も自分たちの身分を考えて味方についてくれるとは思えなかった。王子の目を覚まさせるためのコルネリアの嘘の証拠を探すにも時間はない。
馬車の窓から夕暮れを知らせる茜に染まった空を見て、ローゼマリーはもう駄目だと顔を覆った。どう考えても覆せる未来が浮かばない。
そうやって考えているといつの間にか屋敷までたどり着いていた。重い腰を上げて馬車から出ると屋敷へと入る。豪奢なエントランスを抜けて階段を上り、自室へと向かった。足取りが重く溜息を溢していれば、自室の前に一人の女性が立っていた。
ボブカットに切り揃えられた焦茶の髪には見覚えがあった。
「アンナ?」
「ローゼマリー様」
ぺこりと頭を下げたのはアンナでローゼマリーの召使いであり友人、親友である。彼女とは幼い頃からの付き合いで、気心が知れた仲だ。アンナにだけは弱音を吐いて時に相談もしていた。
そんな彼女がいつもの召使いの服ではなく、地味な服を着ている。それだけではなく、荷物をまとめたような大きな鞄を持っていたのだ。
「どうしたの、アンナ」
「ローゼマリー様にお伝えしなければならないことがあります」
アンナは震える声で言った。
最初のコメントを投稿しよう!