第一章:竜神様の妻になりまして

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第一章:竜神様の妻になりまして

 ローゼマリーは身体が動かなかった。頭が、心が、身体の全てが現実を受け入れたくなくて動作を拒絶する。亜麻色の長い髪がはらりと落ち、瑠璃色の瞳は大きく見開かれていた。なぜ、そうなったのか。それは今、聞いてしまった内容が原因だった。  ローゼマリーはフリューリア国の王子、エルンストの婚約者だった。彼のために王宮で厳しいレッスンを勉強をしていたのだが、その帰りに悲劇は起こった。長い通路を歩いているとその曲がり角から知った声を聞く。すぐにエルンストだと気づいてローゼマリーは声をかけようとして、その言葉を飲み込んだ。 「ローゼマリーとは婚約を破棄する」  ぴたりと動きを止める、彼はなんと言っただろうかと。ローゼマリーは震える足を動かして隠れるようにそっと角から覗き見ると、エルンストのほかにもう一人いた。  くるくると巻いた長い金髪が特徴的なコルネリアという伯爵令嬢の女だった。彼女は口元を覆いながら不安げに涙を浮かべてエルンストを見つめている。そんな様子にエルンストは「君を陥れようとした女は排除するから安心してくれ」と安心させるように優しく言う。 「君に散々嫌がらせをしてきた悪女から助けてみせるよ」 「エルンスト様……」 「君に脅迫状を送ったり、階段から突き落とすなど酷い」  つらつらと挙げられる嫌がらせの数々、それがローゼマリーのやったこととなっていた。もちろん、そんなことをやったことは一度もない。コルネリアなど眼中になかったし、興味もないのだから。  けれど、コルネリアは「そんなことをする方だったなんて……」と泣き出した。誰だ、そんなことを言ったのはとローゼマリーは困惑する。  コルネリアは泣きながら「王子に婚約破棄されて恨まれでもしたら」と不安がる。それを宥めるようにエルンストは「国から追放するから安心してくれ」と告げた。 「僕の妻になる人の側になどあの悪女を置けるわけがないだろう。彼女には罰として国から出てってもらうから安心してくれ」  エルンストは「明日、竜神の贄を贈った後に行われる祝いの儀で婚約破棄をする」と宣言した。それを聞いたコルネリアは涙を拭いながら彼に抱きつく。抱きしめ合う二人の光景がローゼマリーには信じられなかった。  どうしてこんなことになっているのだろうか。嫌がらせなどした覚えはないというのに。いったい誰がと動揺する心を落ち着かせようと胸を押さえた時だ。抱きしめられるコルネリアが不敵な笑みを浮かべているのが見えた。 (彼女がやったことか!)  エルンストから見えないように彼女は笑っている。企みが成功したかのように。あぁ、全ては彼女が全て仕組んだことだったのか。そう理解した時にはローゼマリーはその場から逃げ出していた。
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