184人が本棚に入れています
本棚に追加
御堂さん
午後になって、一番お客さんが来ない時間を選んで、美月さんが休憩に入った。
「どうかお客さんが来ませんように」、そんな不届なことを願いながら立っていると、御堂さんが店に入って来た。
そして、わたしを見ると、自分の頭に手をやり、眉を顰めて言った。
「何でお前がここにいる?」
午前中とは打って変わって口調もきつい。
テンパっていたせいか、つい、見たままを口に出してしまった。
「どうして午前とカフスが違うんですか?」
御堂さんの驚いた顔を見て、失敗した、と思った。
おしゃれに疎いわたしには分からない理由があるんだ。
きっとおしゃれな人っていうのは、一日に何回もカフスを変えるのかもしれない。
けれども、御堂さんは想像とは違うことを言った。
「へぇ。他には何が違う?」
「え? そうですね……午前中はシャツに薄いストライプが入っていたと思うのですが、今はそれがありません」
「ふうん……」
御堂さんは、美月さんがそうだったように、わたしのことを上から下まで見てから言った。
「お前、alternativenの社員じゃないよな。お前みたいなの雇うわけないし」
御堂さんOFFバージョン?
って、あれ?
IKEDAからのヘルプって話、したと思うんだけど?
そこへ、もうひとり、同じ顔が現れた。
「颯真、新しい人をあんまりいじめるな」
「柊真はこんな女がalternativenにいるのを許せるのか?」
「まぁ、彼女はIKEDAの社員さんだから」
「ブランドイメージが崩れる」
「人出が足らないところをヘルプで入ってくれている訳だし、長い目で――」
「いや、ないだろ? バカにしてる」
同じ顔同士が言い争っている。
ONバージョンとOFFバージョンがあるわけじゃない。
御堂さんは、双子なんだ。
それも顔は全く同じで、性格がまるっきり正反対の双子。
「ごめんなさい! わたしもこちらに配属されたのは場違いだってわかっています! でも、わたしにはどうにもできないから、ご迷惑をおかけしないよう、これから勉強します!」
お店にとってブランドイメージがどんなに大切かわかる。
だから今回、怒るのは最もなことだった。
「お前の配属先変えるように掛け合う」
そう言ったのは、もちろんOFFバージョンの御堂さんだったけれど、わたしにはそれが救いの言葉に聞こえた。
最初のコメントを投稿しよう!