御堂さん

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御堂さん

午後になって、一番お客さんが来ない時間を選んで、美月さんが休憩に入った。 「どうかお客さんが来ませんように」、そんな不届なことを願いながら立っていると、御堂さんが店に入って来た。 そして、わたしを見ると、自分の頭に手をやり、眉を顰めて言った。 「何でお前がここにいる?」 午前中とは打って変わって口調もきつい。 テンパっていたせいか、つい、見たままを口に出してしまった。 「どうして午前とカフスが違うんですか?」 御堂さんの驚いた顔を見て、失敗した、と思った。 おしゃれに疎いわたしには分からない理由があるんだ。 きっとおしゃれな人っていうのは、一日に何回もカフスを変えるのかもしれない。 けれども、御堂さんは想像とは違うことを言った。 「へぇ。他には何が違う?」 「え? そうですね……午前中はシャツに薄いストライプが入っていたと思うのですが、今はそれがありません」 「ふうん……」 御堂さんは、美月さんがそうだったように、わたしのことを上から下まで見てから言った。 「お前、alternativenの社員じゃないよな。お前みたいなの雇うわけないし」 御堂さんOFFバージョン? って、あれ? IKEDAからのヘルプって話、したと思うんだけど? そこへ、もうひとり、同じ顔が現れた。 「颯真、新しい人をあんまりいじめるな」 「柊真はこんな女がalternativenにいるのを許せるのか?」 「まぁ、彼女はIKEDAの社員さんだから」 「ブランドイメージが崩れる」 「人出が足らないところをヘルプで入ってくれている訳だし、長い目で――」 「いや、ないだろ? バカにしてる」 同じ顔同士が言い争っている。 ONバージョンとOFFバージョンがあるわけじゃない。 御堂さんは、双子なんだ。 それも顔は全く同じで、性格がまるっきり正反対の双子。 「ごめんなさい! わたしもこちらに配属されたのは場違いだってわかっています! でも、わたしにはどうにもできないから、ご迷惑をおかけしないよう、これから勉強します!」 お店にとってブランドイメージがどんなに大切かわかる。 だから今回、怒るのは最もなことだった。 「お前の配属先変えるように掛け合う」 そう言ったのは、もちろんOFFバージョンの御堂さんだったけれど、わたしにはそれが救いの言葉に聞こえた。
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