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車が停車し、運転手がドアを開けると、目の前にテレビで見たことのある有名な中華料理店があった。
香雅里さんの後をついて行くと、入り口にいた黒いスーツを着た男性が、深く頭を下げた。
店の中に入るとまた別の黒いスーツの男性が、名前も名乗ってないのに「お待ちしておりました」と声をかけてきて、奥へと案内された。
外観も豪華だったけど、店内もドラマなんかで見る宮廷みたい。
見たことのない世界に心臓がバクバクしながら、案内された個室に入ると、そこには同じ顔が二つ並んで座っていた。
御堂さんONと御堂さんOFFだ。
でも2人が一緒にいると、何となく違いがわかる。
髪の色がほんの少し明るい方が多分OFFの方。
「本当に来るとは思わなかった。社交辞令もわかんないのかよ」
やっぱり、正解。
「小鳥遊さん、颯真の言うことは無視していいよ。口ではあんなこと言ってても4人分で予約したのは颯真なんだから」
この優しい口調はONの御堂さん。
会話にはついていけても、料理にはついていけない。
見たこともないものばかりで、説明を聞いてもよくわからなかった。
ただ、とっても美味しいことだけはわかる。
だから自然と顔が綻んだ。
それを柊真さんに見られて微笑まれたので、慌てて目をそらしてしまった。
デザートが運ばれてきたところで、香雅里さんがわたしに向かって言った。
「連絡先交換しましょう! それで、また今日みたいに食事とかショッピングとか行きましょうよ!」
それで、真っ直ぐに香雅里さんに向かって答えた。
「香雅里さんのこと好きですし、一緒にいて楽しいです。食事もショッピングも喜んで行きます。でも、今日みたいなお店は、わたしには敷居が高いです。だから、もっとお手頃なお店だったら大丈夫です。それだとダメですか?」
香雅里さんは、ふにゃあっとした笑顔を見せると、席を立って、わたしに抱きついてきた。
「花蓮ちゃん大好き。お友達になってね!」
「はい、もちろんです」
わたしに抱きついている香雅里さんの、髪の毛の隙間からOFFの微笑んでる顔が見えた。
お店を出たところで、OFFのところに駆け寄って頭を下げた。
「ごちそうさまでした。わたしにはとてもお支払いできないものだと思うので、どうか今日は甘えさせてください」
OFFは「ふんっ」と鼻で笑ってから言った。
「香雅里が喜んでたからいいよ」
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