184人が本棚に入れています
本棚に追加
倉庫へ
昨日は、煌びやかなお店で、見たことのない料理を食べて、まるでお城に行ったみたいだった。
午前中の仕事を終えて、そんなことを思いながら少し遅い昼休憩を取るために、ロッカーに入れておいたお弁当を持って休憩室に行った。
人でごった返している休憩室を見渡して、空いた席を見つけて座った。
休憩に入る前に、年配のお客さんに商品のことを聞かれて説明していたら遅くなってしまった。
10分でお弁当を食べなくてはいけない。
バックから水筒を取り出して、一口飲んだところで、隣の席が空いた。
年配の女性の代わりに、少しメイクの派手な女性がそこに座った。
「小鳥遊花蓮さんよね? 本社からこっちに異動になった人」
「え? はい」
知らない人だけど、向こうはわたしを知っているようだった。
「何やらかしたの?」
「何……特に何も……」
「嘘よ。本社の人がこっちに来るのって、仕事で大きなミスしたとか、社内不倫とか、そういう系だもん」
「わたしには……わかりません」
「嘘つき」
「え?」
「人の男に手を出したんでしょ? でも、あんたなんかが相手にされるわけないじゃない。身の程わきまえなさいよ」
「どういう意味ですか?」
「本社の子に聞いたんだから」
「それは違います。そんなことしてないです」
「IKEDAの社員はみんな知ってるわよ」
「本当に違います」
「やだ、こわーい。何が『花蓮』よ。よくそんな名前名乗れるわね?」
トン、とわたしと女性の間に、ベージュのマニュキュアをした手が置かれた。
「あなた、小鳥遊さんね?」
「はい」
声をかけてきた女性が「はぁ」っとため息をついてから言った。
「また揉め事?」
「主任、なんかこの人急に怒り出して……」
派手な女性が甘えた声を出す。
「あなた、お客様の前に出なくていいから。それ持ってついて来て」
「あの?」
「早く!」
急いでお弁当を片付け、バックにしまってから、先を歩く女性を追った。
女性は無言で従業員エレベーターに乗り込むと、「B1」のボタンを押した。
最初のコメントを投稿しよう!