「花蓮」という名前

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柊真さんに元気をもらったおかげで、朝、いつもより元気に倉庫の片付けを始めることができた。 大丈夫。 いつまでかかるか分からないけど、全部片付けたら、きっと誰かの役にたつはず。 空の段ボールを机がわりに、片付けたところまでもタブレットに入力していると、ここに来てから始めて誰かがドアを開けた。 「小鳥遊さーん、いますかー?」 「はい?」 声のする方に行くと、若い男性が立っていて、わたしの姿を見て驚いた。 きっと制服を着てないからだ。 「部長に呼んで来るように頼まれたんですけど……」 男性は倉庫の中をキョロキョロしながら言った。 「すぐ来れますか?」 「はい」 制服を着てないこと、注意されるのかも…… そんな不安を抱えながら、男性について9Fの会議室に行った。 会議室の中には、部長とわたしに倉庫の片付けを命じた主任が既にいて、部長はわたしの姿に驚いた。 「君、制服は?」 「申し訳ありません。倉庫の段ボールが埃まみれで制服が汚れてしまうので、勝手に私服で作業していました」 「そう、まぁ、それはいい。一応確認なんだが、君に倉庫の片付けを命じたのはここにいる有坂主任で間違いないか?」 「はい」 「それで、有坂くん、どうして廃棄予定のものを集めておく倉庫を片付けさせていたのか教えてもらおうか」 廃棄予定? 驚いて主任の顔を見た。 「それは……小鳥遊さんが他の社員と上手くコミュニケーションがとれず、周りが迷惑していたので……」 「それで倉庫に?」 「……はい」 「そんな権限が君にあったとは知らなかったよ」 「あ、いえ……その……」 「僕は、そういう権限があるから、2人に異動を命じることにするよ。まず、小鳥遊さんは元の食品売り場、で良かったかな?」 「はい」 「食品売り場に本日から戻りなさい。それから、有坂くんは三条スーパーに出向してもらう。役職も降格ということで、後で正式な辞令が出るから」 「え? 待ってください。どうしてわたしが出向なんですか?」 「それは勝手に配置換えを命じたからだよ。しかも廃棄予定の物を整理しろなど、理解し難い。以上」 主任はわたしを睨んでから、会議室を出て行った。 主任が出て行ってから部長に頭を下げた。 「ありがとうございます」 「悪かったね。気がつかなくて」 「いえ。あの……」 「何か?」 「主任は本当に出向になってしまうんでしょうか?」 「君は心配しなくていい。今回のことだけじゃなく、いろいろ問題があったのを、本社の上の方の縁故だという理由で今まで目を瞑ってきたのが間違いだった。着替えて売り場に戻りなさい」 「はい」 『安心して。きっと全部元に戻るよ』 そう言ってくれた柊真さんの、言う通りになった。
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