魔法の時間

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結局食事もご馳走になってしまい、深々と頭を下げてお礼を言った。 駐車場に向かって歩きながら、ふと気になっていたことを言った。 「alternativeの本店って、とても素敵ですね」 「うちのパンフレットなんかを全部やってくれてるデザイン事務所が一からプロデュースしてくれたから」 「そうなんですね。でも一つ気になったんですけど、ソファに座ってる時に、レジカウンターの一部が目に入るんです。ちょうどそこにゴミ箱が置いてあるのが気になって」 「ゴミ箱?」 「そうだと思います。クシャッとなった紙とかビニールが見えたから」 「ちょっと待ってて」 OFFがどこかに電話を始めたので、少し離れた場所で待っていると、ひとりの女性が近づいてきた。 わたしのところまで来ると立ち止まって、耳元に囁いた。 「あんたもすぐに颯真に捨てられるわよ。あいつ、誰のことも本気で好きじゃないんだから」 「それどういう意味ですか?」 「そのままの意味よ。あいつは他の男に向いてる女を自分に向かせるのを楽しんでるだけ。女が落ちたらそこでゲームオーバー」 女性はまだ何か言いたそうだったけれど、電話をしていたOFFがそこでこちらを向いたから、それ以上は何も言わずに行ってしまった。 女性が見えなくなってから、OFFが言った。 「さっきの、何か言われてたみたいだけど?」 「あの人、知り合いですよね?」 「元カノ」 「じゃあ、納得。あなたの悪口聞かされてました」 「なんだ、それ。行くぞ」 さっきの、OFFの元カノが言ったことの、何かがひっかかった。 何だろう? 『他の男に向いてる女を自分に向かせるのを楽しんでるだけ』 他の男って? わたしが柊真さんを「いいな」って思ってるのは確かだけど、そんなの恋とか呼べる物じゃない。 例えば柊真さんに何か恨みとかあって、柊真さんが、惹かれている人を奪おうとするのならまだわかる。 でも、その逆に何の意味があるんだろう?
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