昔とは違う

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cachetteは、その名の通り、少し郊外にある隠れ家のようなフランス菓子のお店だった。 偶然見つけて、あまりの美味しさに時間をかけて全商品を食べた。 そして、食べ終わってから、ケーキフェスタの出展依頼をお願いした。 オーナーの金城さんは乗り気ではなかったものの、スタッフの女性が、ずっとわたしがお店に通っていたことを伝えてくれて、何度も話し合いの後、契約に至った。 後で聞いたら、お店に通ううちに仲良くなったスタッフの女性が、金城さんの娘さんだったらしく、説得に一役買ってくれたということだった。 「ご無沙汰しています」 「ああ……」 「ご挨拶もできないまま異動になってしまって、申し訳ありませんでした」 「うん」 金城さんは、真正面に座っているわたしと、目も合わそうとしてくれない。 「今、IKEDAの販売にいて、お休みは火水だから、こちらのお店のお休みと被ってしまっていて、顔も出せずに申し訳ありません。お店が掲載されている雑誌は全部目を通しています。アレルギーを持つお子さんのために、別工房も立ち上げられる予定だとか。お忙しいのにご無理を申し上げていることは承知しております」 金城さんが初めてこちらを見てくれた。 「そうなの?」 その質問の意図が分からなくて、金城さんの顔をまじまじと見つめ返してしまった。 「来ることができなかっただけ?」 「金城さん、メールをされないと伺っていたから、ご挨拶が手紙だけになってしまって――」 「受け取ってないよ」 「え?」 思わず隣にいる優次を見た。 「申し訳ありません。小鳥遊の急な異動でバタバタしていまして、渡し忘れていました」 この人は…… 「何だ。そうか。契約したらそれでお終いって思われてたのかと思ってた」 「違います! そんなこと絶対にありません!」 「そうだよね。小鳥遊さんはそんな人じゃない。今、どこにいるの?」 「IKEDAの地下食品売り場にいます」 聞かれるがまま、わたしの近況報告をすると、金城さんは随分驚いた顔をした。 ケーキの話になって、新作のこだわりを一通り聞いたところで、本題に話を戻した。 「それで、出展の件はいかがでしょうか?」 「今忙しくて、数は出せないけど、それでもいい?」 「もちろんです!」 「じゃあ、契約書の方は娘にまわしといて」 「ありがとうございます!」 思っていたよりすんなりと話がまとまった後、優次はすぐに帰りたそうだったけれど、せっかくお店に来れたのだからと思って、ケーキを買わせてもらうことにした。 ショーウィンドウの中のケーキをいくつか選びながら、ひとつのケーキに目がとまった。 でもそれをスルーして会計をしようとしたところを、金城さんに声をかけられた。 「この新作、食べたいんじゃないの?」 「はい。でも、あとひとつしか残ってないから」 「他の人のために買うの我慢するの? 小鳥遊さんらしいね。これはサービスでプレゼントするよ」 「いえ! ダメですそんなの! 大切に作られたものなんだから。でも、最後のひとつを買わせていただいていいですか?」 「もちろん」
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