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颯真が飲み物をくれたけれど、いろんなことがいっぱいいっぱいで飲み物すら喉を通る気がしない。
グラスを持ったままでいると、知らない女性が近づいて来た。
また、颯真の元カノだと思って身構えていると、女性はわたしを睨みつけた後、颯真に向かって話しかけた。
「こんなこと言いたくないんでけど、わたし、その人のことよく知ってるんです。彼女……人の彼氏に色目使ってくるような人ですから、お付き合いされない方が御堂さんのためですよ」
「それは……困りました」
「本当に、早くお別れになった方が――」
颯真はわたしをすっと引き寄せると、手をとってキスをした。
「僕の方が彼女に夢中なので、捨てられないようにしないといけませんね」
口調は柔らかなのに、冷たい声。
彼女はバツが悪くなったのか、何も言わずにぷいっと行ってしまった。
彼女が行ってしまった後も、わたしの手を離さないまま、颯真が笑った。
「もっと言ってやっても良かったんだけど」
「そんなこと望んでない」
「そう言うと思った」
「あの人、わたしのことを知ってるみたいだったけど……」
「あれは、高村聖奈だよ。池田の専務の娘」
優次の今カノ……
「池田の人も深水さんの誕生パーティに招待されてるの?」
「今ちょっといろいろあるから」
いつもはっきりとしている颯真が言葉を濁したので、これは聞かない方がいいやつだと思った。
「あ! そろそろ手を離して」
「何で?」
なんとか掴まれたままの手をふりほどこうとジタバタしているわたしを、颯真は面白がってしばらくの間、離してくれなかった。
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