パーティ

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ようやく手を離してくれたかと思ったら、今度は60代くらいの男性が近づいて来て、話しかけて来た。 「やぁ、御堂くん」 「ご無沙汰しています」 「えっと……君は……」 「柊真です」 颯真の返事に思わず瞬きをしてしまった。 颯真は素知らぬ顔をして、柊真さんのフリを続ける。 「柊真くんの方か。そっくりだから区別がつかなくて。失礼したね」 「いいえ」 「そちらの方は?」 「今、お付き合いしている女性です」 「そんな人がいたなんて……知らなかったよ」 男性にジロリと睨まれて、「クレームのお客さんクレームのお客さん」と、唱えながら会釈した。 「最近つき合い始めたんです」 「そうか……なんだ……お父上によろしく」 「はい」 男性がいなくなってから颯真を睨んだ。 「何?」 「どうしてあんな嘘つくの? 自分のこと『柊真』だなんて」 「あいつの後ろに娘がいただろ?」 「え? あ、うん」 「柊真に見合いの話を持って来てたのを、親父がいい顔しなかったから、この機会を狙ってたんだ。上手く引き合わせるつもりだったんだろうな」 「そうなの?」 「柊真とオレの区別もつかないくせに」 「だったら、次は颯真に話がいくんじゃない?」 「それはない。あれでも娘がかわいいんだろう。女をころころ変えるような颯真を相手にはしたくないらしい」 「ねぇ、そんな風に、時々柊真さんのフリをするの?」 「だったら何?」 ずっと気になっていた、違和感みたいなものの正体にようやく気が付いた。 ひどく落ち込んでいた時、柊真さんがくれた言葉がわたしを元気付けてくれた。 柊真さんが、わたしにあんな風に言ったのは、あの時が最初で最後だった。 でも颯真はいつも、わたしが前を向いていられるような言葉をくれる。 「あの時わたしに声をかけてくれたのは、颯真なんだね?」 「あの時って?」 「わたしが倉庫の整理してるのを食品売り場に戻してくれたのも颯真だったんだね?」 颯真が、見たことないくらい優しい顔をした。 「どうして柊真さんのフリをしたの?」 「優しい言葉をかけるのは、柊真の担当だから」 あの日のことがあったから、わたしは柊真さんに惹かれた。 でもその後、颯真の優しさに気が付いて、颯真のことが気になり始めた。 自分がこんなにフラフラする人間だなんて、落ち込んだりしたけれど、そうじゃなかった。 あの日、わたしを元気づけてくれたのが颯真だったなら、きっと最初から颯真に惹かれてた。 でも、そのことに気が付いて、同時に苦しくなった。 颯真が、わたしのそばにいる理由がなくなってしまった。
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