184人が本棚に入れています
本棚に追加
「村中さん、毎年の北海道物産展のことなんだけど」
「資料もらえたら目を通しておきます」
「あ……うん。わかった」
仲がいいと思っていた村中さんに話しかけて、冷たくあしらわれた。
先週まで普通にお菓子の交換とかしてたのに……
休んでいた間に何があったの?
自分なりにまとめていたこれまでの資料を、イベント毎にフォルダ分けし、全部ファイルサーバーに移動させた。
毎年開催されるイベントの参考になればいいけど。
恒例になったケーキフェスタに、新たに出展をお願いしようと、目星をつけていたお店のリストと、そのお店の詳細をまとめた資料は、優次にメールした。
口頭で付け加えておきたいことがあって、優次の席まで言って声をかけた。
「大垣さん、さっきメールの――」
「もう、やめてくれないか?」
「え?」
「データは全部共有フォルダに置いてもらえればいいから。わざわざ個人的なメールとか送って来ないでほしい」
何?
全然個人的なメールじゃないと思うんだけど?
でも、優次のその言葉で、社内の人が何か言いたそうにしているのはわかった。
それでも、誰も何もはっきりとは言ってくれない。
ちょっと頭を落ち着かせたくて、コーヒーでも飲もうと自販機に向かっている時に、給湯室で村中さんが誰かと話しているのが聞こえた。
「――でさ、大垣さんにまだ言い寄ってるの。小鳥遊さんには、はっきり彼女がいるから迷惑って言ってたらしいけど、全然懲りてない感じ」
「えーっ! 怖い〜。どーゆー神経してるんだろうね」
「仲良さそうに見えたのは、大垣さんが我慢してたからだってわかって、かわいそうになっちゃった」
「それでずっとペア組まされて企画やってたとか、大変だっただろうね……」
「今まで、同じ部署だからって、誰にも言わないでずと抱え込んでたとか、大垣さんいい人すぎる」
頭の中がパニックになって、自販機には行かずに、そのまま席に戻った。
わたしが、優次に言い寄ってる?
何をどうしたらいいのかわからなくなって、頭の中が真っ白になってしまった。
その時、清掃会社の深川さんが、わたしのデスクの空っぽのゴミ箱を覗きながら囁いた。
「3Fの女子トイレにおいで」
最初のコメントを投稿しよう!