ぱにっくあにまる

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「トシヲくんにおもちゃのホタテをあげて、永遠に割れない貝割りをさせたらしいな。何回叩いても貝が割れないからトシヲくんが大混乱だったと報告されている。目にも止まらぬ速さで腕振り続けてたらしいぞ」 「貝割る姿が可愛かったから。ずっと見ていたくて、つい」 「ちょっとわかるが。本人にとっては死活問題なんだからやめてやれ」  次の日疲れ切っていつも以上に寝ていたとか。寝てる姿が可愛い、と行列ができていた。写真をみるとお手本のような「スヤァ」である。 「ラッコが貝割る時に使う石って一生物らしくて。この石をうっかり落としてなくしちゃうと、ショックで拒食症になって死んじゃう子もいるらしいから。石にはいたずらしなかったよ」 「それやってたらパニックどころじゃないわ」  要するにこの男、様々な生き物をパニックに陥れているらしい。初めて聞いたとき牧師は「知らねえよネットにあげてナイスボタン一万回押してもらえボケが」と言ったのだが。教会の偉い人から「つべこべ言わねえでこいつを反省させろ給料減らすぞ」と言われてしぶしぶ引き受けたのだ。 「しかし水族館では手が出せる相手が少ないかなと思ったわけだ。お前よりもよって動物園に行ったな」 「『動物と触れ合っちゃおう!』って掲げてたから」 「やめて差し上げろ。なんかもうこの動物名見ただけで何したかわかっちゃったけど、お前アライグマに餌やったな」 「うん、わたあめ」  受け取ったアライグマは嬉しそうに水辺に持っていって洗った。洗って洗って、消えてなくなってしまって。 「ものすごいキョロキョロして、きょとんとしてもう一回探し回ってたよ」 「鍵なくしたときの俺じゃねえか」 「無くしものした時は人も動物も同じなんだね」 「やかましいわ」  その時たまたま居合わせた他の客が「アライグマ可愛すぎる!」とSNSに動画をあげている。ナイスボタン三万回押されているが、アライグマは呆然としていた。そしてはっと我にかえって慌てて水の中をバシャバシャと探し始めている。 「めっちゃかわいそう」 「その後ちゃんとりんごあげたから許してよ」  りんごをもらったアライグマは、いつもの二倍くらい時間をかけてゆっくり洗っていた。何度も手元を確認して、急いで巣の方に戻っていった。多分寝床でゆっくり食べるのだろう。 「これでこのアライグマにトラウマが芽生えてたら、お前の罪二乗な」 「二乗は辛いなあ」 「次、やっぱり水族館に戻ってマンボウ……おいこら」 「まだ内容話してないじゃない」
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