落合探偵事務所にて

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「このところ暇すぎて頭まで暇にしてたんで。 完全に今日の予約の件を忘れてました」 キッパリと言い切る落合さんは、実際に紺のスェットの上下姿だ。 それは落合さん適当な部屋着なのだと僕は知っている。 「いえ、居てくださっただけでも助かりました」 依頼者らしき女性は、怒鳴られるわ幽霊は見るわ、失礼の数が とんでもないのに、落ち着きを取り戻していた。 「そうですか、伊崎さんは幽霊が見えるんですね。 彼は、生前は中野って人物だったそうです。 以前にあった依頼のとき、出会ったんですけどね。 なんか、なつかれて、ちょくちょく事務所に来るんですよ」 「そうなんですか。でも、幽霊の割には明るいですね。 怖さを感じないので大丈夫です。 それに、とても可愛い顔つきでうらやましい。茶髪も似合ってる。 私、髪を染めても似合わないんですよね。目つきも悪いし......」 黒々としたロングヘアーをシュシュで後ろにまとめた伊崎さんは 切れ長の目で肌が白くてクール系の美女って感じ。 夏モノのワンピースの上にベージュの薄手のカーディガンを羽織って 黒くて高いハイヒールを履いている。 「もうほとんど、爪先立ちですよね」 落合さんが唐突に言った。 ソファーに座る伊崎さんへと、コーヒーをセンターテーブルに置いて。 「はい?」 「いえ、あなたのハイヒールの高さに驚いてます」 「あ、私、身長が152センチしかなくてコンプレックスで。 かかとの高い靴を買うクセがあるんです」 「なるほど。あ、きた!」 落合さんが玄関へと小走りすると同時にインターフォンが鳴った。 「はいはいはい、どうもどうもどうも」 とか言いながら対応したのは、事務所の下の階にある中華料理店の 配達だった。
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