落合探偵事務所にて

4/6

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/29ページ
結局のところ、落合さんは着替えにいった。 この探偵事務所は玄関を開けてすぐにリビングで、ソファーと センターテーブルと壁の端に観葉植物。 依頼者との対応はここでやっている。 リビングにカウンター式のキッチンがあり、落合さんはコーヒーを 本格的に淹れて客に出す。 食事は依頼者がいないときにカウンターの椅子で食べている。 そして大きな衝立で奥の廊下を隠している。 廊下から先にトイレとバスルーム、落合さんの寝室がある。 探偵事務所とプライベートを分けれる便利な間取りなのだ。 ちなみに東京、大久保駅北口の近くの4階建てのビルの3階。 1階がライヴバーで2階が中華料理店、4階は空き家。 というわけで消えた落合さんの代わりに、僕は伊崎さんと会話した。 もちろん依頼の詳細は後回し。 僕の着ている春モノのカラシ色のコートを高円寺で買ったとか。 20代にして亡くなってるけど、悲壮感は、いまは感じないとか。 そういう自分語りに、伊崎さんは優しくうなづいてくれた。 「はいはいはい、すみませんね、陽気な幽霊の相手してもらえて」 スウェットから軽装になっただけの落合さんが痩せ型の身体で 衝立をスルリと抜けて登場した。 「はーい、陽気でーす。ところで落合さん、お腹がすいたままで、 依頼を聞いて頭が回るんですか? さっきだって、チャーハンの匂いを嗅ぎつけて玄関に小走り」 「犬じゃねえんだから匂いで気づくわけねえだろっ。 階段を上がってくる足音が聞こえたんだよっ。 人間はね、ちゃんと足音がするんだよっ」 「足音ねえ、すみませんね~」 僕はフワフワと身体を宙に舞わせた。 「うっとおしいっ!」と、落合さんに怒られた。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加