落合探偵事務所にて

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「空から飴玉が降ってくる村なんです」 伊崎佳織(いさき かおり)さんの切り出しに、僕と落合さんは硬直した。 「ちゃんと個別包装された飴玉です。村の役員の男性が勇気を出して、 いえ、ほぼ覚悟して、開けて食べてみたら......。 柑橘系の味だったそうです。その方は体調に変化なく無事でした。 でも、どうして空の上から降ってくるのか不明なんです。 しかも数週間前から毎日、午後17時になると、 村にひとつしかない公園にだけ降ってくるんです。この法則も謎です」 コーヒーカップを持ったまま、落合さんは口をポカンと開けている。 「信じられませんか?でも、本当のことなんです。 その飴玉は数分ほど大量に降ってから、数分で消えます。 だから、実際に見てもらわないとどうにもならないのですが」 「へえ、消えるなら食って消費しなくて済んで楽っすね」 伊崎さんに言われて我に返り、落合さんはコーヒーを口にした。 「えーと、伊崎さん、ヘリコプターとかで誰かが落としてるとか」 「それはありません。小型飛行機とかヘリとかなら音がしますよね。 すごく静かな状態で落ちてくるんです。 そもそも、普通の飴玉なら勝手に消えたりなんかしません。 しかも録画をしてみたんですけど、なぜか映りませんでした」 「ファンタジックな怪異ですねぇ」 「はい。ですから霊媒師に頼めるわけでもなく......」 「あのぅ、俺も普通の探偵ですよ?なんで、こちらに依頼を?」 「それは、ごめんなさい、失礼かもしれませんが、 探偵を検索したら、アイウエオ順で落合さんがすぐに出て、 しかも大久保は行きやすかったので」 「あぁ、そういう」 「ご迷惑、ですか?」 「あ、いえいえ、ただ、俺自体に能力があるわけじゃないので。 解決できるかどうか......」 「でも、ちょっと期待してます、私。 だって幽霊の中野さんが見えるのは、能力じゃないんですか?」 「それは違うんだなぁっ、中野くんから寄ってきて、なついただけ!」 「落合さん、人を犬みたいに言わないでください」 「だから人じゃねーだろっ!」 落合さんが短めの髪を掻いて困惑している。
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