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八作村にて
某日、水曜日、某駅にて、駅前の駐車場に停めてあった伊崎さんの
軽自動車に落合さんが乗り込んだ。
落合さんは白いTシャツにベージュのシャツで黒のチノパンに黒い靴。
僕は幽霊なので衣装は季節に関係なく変わらない。
伊崎さんはブイネックのシャツの上に薄手のカーディガンを羽織って
パンツスタイルにハイヒールだった。
「ひゃっほーい!」
「中野、遊ぶな!」
車の後部座席に座った僕は、上半身だけを車の上から出して
走行する風を浴びていたら落合さんに怒られた。
伊崎さんは相変わらずの大らかさで笑ってくれた。
やがて車は細い山道を走り始めた。
かなりの傾斜でも急カーブでも伊崎さんは手慣れたハンドルさばきで
抜けて行く。
「伊崎さん、慣れてますねぇ、揺れとかも、ほぼ感じない」
余裕で腕組をして落合さんが感心している。
「まあ、車の運転は、かなり練習しましたから」
と、涼し気な顔で伊崎さんがスイスイと山道を切り抜けていく。
「色々と見事なもんです」
と、落合さん。
車は更に山道を走り、ようやく集落が見えてきた。
質素な二階建ての住宅がいくつも立ち並んでいる。
「なんだー、村って、藁ぶき屋根とか想像してました」
「中野、おまえは何年前の幽霊だよっ!」
「現代っ子ですよ~」
「村人たちに謝れっ」
「会ったらごめんなさいしまーす」
「いや、おまえ霊感ある人間にしか見えないよな」
「そうだった、いるかなあ?」
「村の人数によるんじゃね?確率的には」
僕らの会話に伊崎さんが笑った。
「私の知るかぎりでは霊感のある方はいませんね」
とのこと。
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