八作村にて

1/8
前へ
/29ページ
次へ

八作村にて

某日、水曜日、某駅にて、駅前の駐車場に停めてあった伊崎さんの 軽自動車に落合さんが乗り込んだ。 落合さんは白いTシャツにベージュのシャツで黒のチノパンに黒い靴。 僕は幽霊なので衣装は季節に関係なく変わらない。 伊崎さんはブイネックのシャツの上に薄手のカーディガンを羽織って パンツスタイルにハイヒールだった。 「ひゃっほーい!」 「中野、遊ぶな!」 車の後部座席に座った僕は、上半身だけを車の上から出して 走行する風を浴びていたら落合さんに怒られた。 伊崎さんは相変わらずの大らかさで笑ってくれた。 やがて車は細い山道を走り始めた。 かなりの傾斜でも急カーブでも伊崎さんは手慣れたハンドルさばきで 抜けて行く。 「伊崎さん、慣れてますねぇ、揺れとかも、ほぼ感じない」 余裕で腕組をして落合さんが感心している。 「まあ、車の運転は、かなり練習しましたから」 と、涼し気な顔で伊崎さんがスイスイと山道を切り抜けていく。 「色々と見事なもんです」 と、落合さん。 車は更に山道を走り、ようやく集落が見えてきた。 質素な二階建ての住宅がいくつも立ち並んでいる。 「なんだー、村って、藁ぶき屋根とか想像してました」 「中野、おまえは何年前の幽霊だよっ!」 「現代っ子ですよ~」 「村人たちに謝れっ」 「会ったらごめんなさいしまーす」 「いや、おまえ霊感ある人間にしか見えないよな」 「そうだった、いるかなあ?」 「村の人数によるんじゃね?確率的には」 僕らの会話に伊崎さんが笑った。 「私の知るかぎりでは霊感のある方はいませんね」 とのこと。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加