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 アレックスが神殿の屋根から飛び上がる。  重力を感じさせないくらい軽やかに高く。  人々は息をのんで、アレックスを見つめた。  どうすることもできず、銃を構える兵にミジェルが止めた。 「撃つな! 魔女に当たる」  人々の歓声の中、ジュリアを抱えたアレックスが遠く人混みに紛れて消えた。  百以上の兵を投入したのに、見失ったと続々と届く兵からの報せに歯噛みして、ミジェルは持っていた書状を床に叩きつけた。  ミジェルの脳裏からジュリアがこびりついて離れない。  実際のところ、ジュリアは現れたアレックスに助けられただけなのだがミジェルの中では、みだらにアレックスを誘惑しているジュリアの姿に置き換わり、怒りの炎が胸に燃え広がった。 「おのれ、キルタの魔女め。私を愚弄しおって。必ず手に入れて、後悔させてやる」  腰から剣を引き抜いて、空を切った。 「ここは私の息のかかった地。ここまで来れば大丈夫だ」  力強く優しくジュリアに囁く。 「キルタの人々は……」  自分が助かったと言うのに顔を曇らせるジュリアをアレックスは優しい眼差しで見つめる。 「キルタには偉大なる海神の加護がある。心配するな。必ず助ける」 「私を助けて頂いた事に感謝いたします。私はジュリア・ロゼス。キルタを守る海神神殿の神官長を務めています」 「俺はアレックス。姓はとうの昔に捨てたから、ない。アレクと呼んでくれ」  海賊と呼ぶには、洗練された所作のアレクをジュリアは不思議に思った。  キルタの湾を小舟で抜け、外洋に出ると大きな帆船が停泊していた。  小舟から帆船に上がると、数人の海賊が恭しくアレクとジュリアを迎える。  海賊というからには荒くれた男達だと思っていたジュリアは、アレクの配下の者も洗練されている事に驚いた。 「アレックス様、ご無事のご帰還何よりです。湯浴みの用意ができております故、ごゆるりとお使いくださいませ」  アレックスは頷き、ジュリアの手を取る。 「君が先に使うといい。話はそれからだ」
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