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 止める間もなく、海に飛び込んだイリアスとミジェルはあっという間に波に飲み込まれ見えなくなった。  パパティアナに大きく亀裂が入り、浸水速度が増す。  アレクはジュリアを抱きかかえた。 「脱出するぞ」  波を上回る物凄いスピードで一行が走り出す。  一行が地上に出たところで、地下神殿が崩折れた。  地上神殿は堅牢な岩盤の上に建立されていたせいか、パパティアナだけが海底に沈んでいった。  イリアスとミジェルを生贄にして、海神ネプチュニスの怒りは解けたようだ。  アレクたちは、声もなくただ黙って沈むパパティアナとネプチュニスの彫像を眺めた。  先程まで生きた人間の如く色鮮やかに、滑らかに話していたとは思えないほど、白い彫像であった。  顔を手で覆って泣いているジュリアをアレクはそっと抱きしめた。 「オレと人の子として生きてくれないか?」  アレクがジュリアに問う。 「この先、どう生きるかは君の自由だ。オレとしては、ジュリがどこにいようと必ず攫いにくるがな」  アレクの言葉にジュリアが少しだけ微笑んだ。 「それは……自由とは言わないわ」 「攫う、奪う、は海賊の性分だから仕方がない」 「あなたは、攫いも奪いもしなかった」 「オレが攫いたいと思うのも奪いたいと思うのも、ジュリア、ただ一人だけ」  ジュリアはアレクの胸に頬を寄せる。 「偉大なるキルタの守護神ネプチュニスの前で誓ったわ。人の子として、アレクス王と共に生きる、と」  アレクがジュリアの顎に指をかけ、顔を上向かせる。  ゴホン、ゴホンと三人の咳払いが聞こえた。  シアー、ザホス、バダマの三人がニヤニヤしながら、主を見守っている。 「頭ぁ、いや、西大王国アレクス王、ラブシーンなら後にしてもらえませんかね」 「いやぁ、オレたちも姫さんが好きなんですがね、まさか頭、いやアレクス王が先に手を出すとはね」 「しかも臣下の眼の前で」 「うるさいぞ! おまえら、少しは気を利かせろよ!」  怒鳴ったものの、アレクは三人に頭を下げた。 「ありがとう。王宮を追われてからも、お前たちはずっと俺についてきてくれた。長い間、苦労を、かけたな」  主人を誂っていた3人は居住まいを正した。  が、すぐにザホスがニヤリとして言った。 「なんの、なんの。苦労ならこれからだってかけられるでしょうし。何も気にしておりません」  シアーとバダマも続く。 「これからの苦労のほうが思いやられますねぇ」 「まぁ、王について行けば、美しい姫君の側にいられますからな」  三人の言葉にアレクは楽しそうに笑うと、ジュリアを攫うように抱きしめて、口づけた。  呆気に取られる三人の臣下と、照れて真っ赤になるジュリア。  若きアレクス王の爽やかな笑い声を乗せて、丘を渡る潮風が海に帰っていく。
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